引退の斎藤佑樹、もがく姿を隠さなかったワケ… “ハンカチ王子”の深すぎる野球愛
右肩、右肘の致命的な故障…明るい道しるべになりたかった
プロでの斎藤は、1年目がピークだったと言えるのだろう。6勝6敗、防御率も2.69。成績が大きく下降し始めるのは2年目の後半からだ。やがて右肩関節唇の損傷と診断され、2軍で顔を合わせる機会が増えていった。
復帰を目指し、短い距離でネットにボールを投げる作業が、延々と続いた。肩の痛まない、正しいフォームで投げられるようにするためだった。暑い日も寒い日も。
そんな時に聞いた。肩を痛めていると分かってから「関節唇損傷」と何度もインターネットで検索したのだという。明確な治癒例はなかった。怖くなった。それでも「自分が治れば、それが検索してもらえるようになりますよね」と明るい表情で言った。もがく姿を、隠すこともできただろうが、斎藤はそうはしなかった。
昨年故障した右肘もそうだ。靭帯を繋ぐトミー・ジョン手術の道は選ばなかった。自分に残された時間は少ないという以上に、後に続く野球選手たちの道しるべになりたかったのではないだろうか。保存療法を選び、リハビリ開始から約半年でマウンドに戻って来た。正直、思ったようなボールは投げられなかったことだろう。それでもこれほど短期間で、プロの実戦に戻って来たこと自体が1つの明るい例となる。
斎藤は引退発表にあたって「ご期待に沿うような成績を残すことができませんでしたが、最後まで応援してくださったファンの方々、本当にありがとうございました」と球団からコメントを出した。「期待に沿う成績」は、途中から意味を変えていたはずだ。国民的ヒーローが見せたもがき苦しむ姿は、未来の野球選手にとっての大きな財産となる。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)