河川敷の高架下で“壁当て”も… 台湾プロ野球デビューへ、元阪神の29歳右腕の覚悟

中信兄弟・高野圭佑【写真提供:中信兄弟球団】
中信兄弟・高野圭佑【写真提供:中信兄弟球団】

一時は現役引退も覚悟「ワールドトライアウトを受けた時が最後になるのかな、と」

 8月下旬にようやく2軍戦が始まると、マウンド上で必死に腕を振った。ストレートは150キロに達し、大きく落ちるカーブを生かした投球で打者を翻弄。2軍で6試合(うち先発1試合)に登板したところで、投球内容と成績を高く評価したフロント陣は右腕の1軍昇格に踏み切った。

 念願の1軍昇格だが、高野に浮かれる様子はない。「手放しで喜べる状況でない。まだチャンスを与えられただけですから」と状況を見る目は冷静だ。「チャンスを掴まないと。ここが踏ん張りどころだなという感じはあります」。1軍定着に向けて勝負の舞台に立っただけ。試験本番はここからスタートだ。

 JR西日本から2015年ドラフト7位でロッテに入団。2019年途中に阪神へトレード移籍すると、その翌年に戦力外通告を受けた。プロ入りからわずか5年。まだまだやり残したことはあると現役続行を希望し、12球団合同トライアウトに加え、ワールドトライアウトにも参加した。ワールドトライアウトでの投球が海外スカウトの目に留まり、縁あって中信でプレーすることになったが、一時は現役続行の道は厳しいかもしれないと感じたこともあったという。

「ワールドトライアウトを受けた時が最後になるのかな、と思って練習している時期もありました。今、プロとして再びマウンドに立っていることに感謝です。昨年戦力外になった100人を超える選手の中から、数多くの選手がトライアウトを受けて、台湾では僕1人がチャンスをいただけた。グラウンドがあって、コーチがいて、キャッチボールする相手がいて……。これはとても幸せなことだと再確認しながら毎日を過ごしています」

 元々、野球をできる環境を“当たり前”として捉えることはなかった。社会人時代、高い才能がありながら自ら野球を捨てた選手が後日、その決断を後悔する姿を目の当たりにし、「野球ができる環境は当たり前ではなく特別だ」と実感。中信入りが決まる前は練習場所が見つからず、早朝に近所の河川敷で高架下の壁に向かって1人ボールを投げ続けた経験をしたことで、さらに思いを強めた。

日本で活躍する先輩投手から届いたアドバイス「1球1球丁寧に投げろよ」

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