生死さまよった父、前例なき手術、イップス…元ドラ1左腕が引退固辞して選んだ戦力外
現役引退を聞いた小学2年生の愛息「やったー! 早くやめてー」
NPB復帰を目指し、2020年は沖縄初のプロ野球球団「琉球ブルーオーシャンズ」に身を置いた。独立リーグも考えたが、腰のことを考えると長時間のバス移動は酷だと判断した。ただ、直後にコロナ禍の世界に一変し、南の島ではろくに試合もできない状況に追い込まれた。「もう一回、勝負がしたい」。家族に約束し、栃木で迎えた最後の1年。NPB球団から声はかからず、納得してピリオドを打った。
小学2年生の愛息に引退を伝えると「やったー! 早くやめてー」と喜ばれた。束の間、一緒に遊ぶ時間ができる。もうトレーニングする必要がないオフ期間を、穏やかに受け入れる。「あまり生活は変わってないですかね。今はゴルフをやってるくらい。太るかなと思っていたら、むしろ痩せました。聞いていた話とは違うなって」と笑う。
誰もが羨むプロ人生ではないかもしれない。
「しんどい方が多かった。楽しかった記憶はあまりないですね。楽しんでやれるまでにはいかなかった。入団した時、このままでは5年でクビになると思って必死にやってきました。どうやったら上手くなるか、どうやったら1軍で活躍できるかしか考えていなかったです」
ヤクルトでの14年間で、通算46勝55敗6ホールド。そして、2年間の現役延長。選んだ道に、後悔はない。「自分の中で処理し切れていなかった気持ちが、達成できました」。秋空のように晴れやかな表情が、妥協なきプロ人生を象徴していた。