創部94年の「古豪」が初優勝できた理由とは? 東京ガス、最後の魔法は“胸のマーク”

予選を突破できないチームを、わずか数か月で生まれ変わらせる方法

 実際には、もっと強い言葉を選手にかけていた。「日本一になりたいと思っていない奴は言いに来い。会社に戻してやるから」。幸い、辞めたいという選手はおらず、より自身の弱点に向き合った練習が始まった。指揮官自身も変革を迫られた。「情の采配が多かったと思うんです。『頑張っているから使ってやりたい』とか。日本一になるには非情な部分も必要だと思ったんです」。

 山口監督は慶大出。2学年上には高橋由伸氏(元巨人)がいた。監督就任4年目、都市対抗に出られなかった過去2年は、大学の先輩たちから学びを求めた。大久保秀昭氏(ENEOS監督)、堀井哲也氏(元JR東日本、現慶大監督)、印出順彦氏(元東芝監督)と、都市対抗の優勝経験がある監督の元を回った。

 今大会の抽選結果を見た時、大久保監督率いるENEOS戦が大きな壁だと思っていた。「(相手は)優勝回数11回ですよ。勝てば駆け上がれると思っていた」。試合前に、選手に“魔法”をかけた。「背中の名前のためにやるんじゃなく、胸のマーク、社名のためにプレーしろ」と。

 東京ガスは学生の就職先として高い人気を誇る。クリーンアップに並ぶ3番・小野田俊介外野手、4番・地引雄貴内野手、5番・加藤雅樹捕手は皆、早大で中心選手として活躍した。6番に入り、大会打率.417で首位打者に輝いた笹川は東洋大時代、ドラフト候補として名前が上がっていた。スター軍団は得点すると、ガッツポーズではなく胸を突き出し、ユニホームの「TOKYO GAS」を誇示するようになった。

 山口監督は「急にやり始めたから、何やっているんだろうと思ったんです。でも打席で苦しければ繋ぐとか、自然とやれるようになったんですよ」とその“効果”に驚く。ENEOSを4-3で下すと、準決勝では同地区のライバル・NTT東日本を9-3という大差で破った。決勝でも早々に6点を奪い、試合の主導権を握った。意識をひとつにするには、目に見える行動が必要だった。

 笹川は、自身が4番に座りながらも、チームがドームから遠ざかった2年間を「自分が引っ張ってやろうという2年でした」と振り返る。そして今大会は「僕が6番にいるチームは強い。自分の役割を全うしようと思ったのがいい結果に繋がった」とも。優勝チームに与えられる黒獅子旗を掴み、今度は追われる立場になる。ただ日本一への道で生まれた強固なつながりは、簡単には崩れない。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY