「歯がゆさはありましたよ」現役引退した日本ハムの“アイドル”が漏らした苦悩

インタビューに応じた元日本ハム・谷口雄也さん【写真:荒川祐史】
インタビューに応じた元日本ハム・谷口雄也さん【写真:荒川祐史】

「アイドル選手」の苦悩と感謝…「いい時も悪い時も名前が」

 引退を即答した場で、翌日の西武戦で現役最後の打席に立たないかと打診された。戦力外通告を受ける前日のフェニックスリーグでは4打数2安打、1盗塁。まだまだ体は動く。荷物をまとめ、札幌へ向かった。

「肩さえ大丈夫なら、トライアウトを受けていたと思います。最後に距離は投げられるようになりましたから。でもどうしても送球に強さが出ない。それは自分が一番わかっていましたからね」

 10月26日の札幌ドーム。7回2死無走者で出番が回って来た。いつもよりゆっくり、味わうように準備をして、もうやり残したことはないと向かった打席。ところがいざ立つと、涙があふれて来た。「これはヤバい。ボールが見えなくなる」と初球を叩き、左前への安打とした。急に決まった引退出場にもかかわらず、スタンドには、自分の名前が書かれた応援グッズがたくさん揺れていた。

 入団時からプロ野球選手とは思えぬ小顔、童顔で人気を集めた。「谷口きゅん」の愛称も定着し、女優の剛力彩芽似と記事にされることもあった。春のキャンプ中は連日プレゼントの嵐。雑誌の人気投票や、球団の「彼氏にしたい選手権」では上位常連で「アイドル選手」と見られた。

「少なからず歯がゆさはありましたよ。知名度に、なかなか野球の実力で追いつけないのは。でも終わってみて思うのは、野球選手じゃなければこんな経験は出来なかった。自分の名前がメディアに載ってどんどん大きくなって。いい時も悪い時も名前が出るのがプロ野球選手だとよーくわかりました。僕の11年間を華やかにしてくれたのは、ファンの皆さんとメディアのおかげ、そう思っています」

 今年からは、札幌で勤務する球団職員となる。2023年に開場する新球場「エスコンフィールド北海道」のPRや、少年少女に野球を教えるベースボールアカデミーの業務に就く予定だ。野球を学んで、いつかは指導者になってみたいという希望もある。

「野球が上手くなる方法は、人の話を聞くことだと思っています。『元プロ野球選手』の肩書がなくても、話を聞いてもらえるような人間になりたいですね」。苦しんだ数年間は、まだまだ続く“野球人生”できっと糧になる。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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