「10歳年上と話ができる」中学生を育てること 全国屈指の名門シニアの指導方針

武蔵府中シニア・小泉隆幸監督【写真:編集部】
武蔵府中シニア・小泉隆幸監督【写真:編集部】

上のレベルで通用する野球選手になるための“準備”

 緊張する場面やピンチでサインプレーを使う。あえてそこで頭を使うことで、体が固まってしまわぬよう、“動き”を入れる。ガチガチになるのではなく、“攻め”の守りを展開する。

「高校に上がったばかりの選手で、サインを覚えられない子が多いと聞きます。そういう子もいますが、うちのチームに入ったら、野球の基本的なものは、学ばせてあげたいなと思っています」

 きめ細やかな部分は何も野球だけではない。それ以外の部分では、返事や挨拶、電話での話し方、ユニホームの着こなしを細かく見ている。

「大人と会話のできる中学生を育てていきたいと思っています。“大人の会話”というのでしょうか……10歳年上とまではいかないけれど、ちゃんと会話ができるような人になってほしいんです」

 恩師、小枝監督も高校野球は人間形成の場として「10歳年上の人と話せるように育てたい」と人としての考え方を学ばせてきた。「衣服の乱れは心の乱れ」とグラウンド外での態度も細かく見ていた。そして、卒業生を送り出す時は「社会のレギュラーになりなさい」と言葉を添えていた。

「小枝さんはよく言っていましたよね。10歳年上の人と同じ考えができるように、と。監督自らがユニホームの着こなしも綺麗でした。よく注意していましたよね」

 子どもたちのために、環境を整えてあげることが、大人の使命なのかもしれない。

 緊急事態宣言下ではできなかったが、解除されてからは夜間練習が再開された。高校野球の地方大会でも使用される府中市民球場で週に数日、3時間とたっぷり練習をしている。広々とした野球場、フェンスやスタンドもある。実際に大会で使うスタジアムで練習ができるのは、選手にとってはプラスしかない。

「一番の良い指導というのは、良い経験をさせてあげることだと思うんです。勝つとか負けるとかではない。それこそが子どもたちの財産になると思います」

“良い経験”と一言で言っても、グラウンド環境を整えること、全国大会に導くような指導をすること、リトルリーグなどのように海外での世界大会に出場すること、楽しい場所を作ること……人によって解釈は分かれるだろう。小泉監督は大学や社会人など長く野球を続けられるように野球の楽しさや魅力、学業を通じて社会性を身につけさせることが、武蔵府中の考える「経験」なのだ。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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