国学院久我山の切り札に? イチロー氏のバットをただ1人振った“奇跡を呼んだ男”

選抜出場を決めた国学院久我山ナイン【写真:中戸川知世】
選抜出場を決めた国学院久我山ナイン【写真:中戸川知世】

イチロー氏に個別質問「お腹が出ていたら野球選手ではない?」

 昨秋の東京都大会で優勝した国学院久我山高(東京)が28日、第94回選抜高校野球大会に11年ぶり4度目の出場を決めた。同校は秋季大会後の昨年11月29日から2日間、イチロー氏(マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)から直接指導を受けて話題になった。甲子園では“ただ1人イチローバットを振った男”が脚光を浴びるかもしれない。

 選抜初勝利、そして、3度出場している夏の選手権を含めても甲子園通算2勝目となる白星が当面の目標。そんな国学院久我山には尾崎直輝監督が「国宝級の宝物で、1番のお守り」と表現する物がある。イチロー氏が同校グラウンドでフリー打撃を披露した際に使用していた黒地のバットだ。練習中はネット裏のテーブルの上にネットに立てかけるようにして置かれる。そこには神棚のような神聖な雰囲気さえ漂っている。

 尾崎監督は「イチローさんからは、これがあれば『常に私に見られているような気がするでしょ』、および『私が教えたことを忘れないでしょ』という意味合いでいただいた」と語り「イチローさんからは『打つのはやめてね。でも、素振りはしていいよ』と言われた。しかし、恐れ多いみたいで、ほとんどの子はあまり触ってもいません」とも明かした。

 ただ、たった1人だけ、この“イチローバット”を振った部員がいた。「私が『振ってもいいよ』と言ったその日に、早速握ってブンブン振っていた」と尾崎監督。173センチ、95キロとチームきっての巨漢を誇り、右投左打で強打が売りの鈴木勇司内野手(1年)だ。甲子園への道を切り開いた昨秋の東京都大会には、背番号13でベンチ入り。11月7日の決勝・二松学舎大付戦(神宮)では、1-3と2点ビハインドで迎えた9回、1死走者なしの場面で代打で登場し、左前打を放ち逆転サヨナラ勝ちの口火を切った“奇跡を呼んだ男”だ。

 鈴木勇はイチロー氏が指導に訪れた際に、勇気を振り絞って個別に質問もした。イチロー氏の過去の名言を引用し「お腹が出ている選手は野球選手じゃないですか?」と問いかけた。自分の体形が心配だったようだ。しかし、イチロー氏からは「いや、僕は『お腹が出たら引退する』と言ったの」と説明し「いいんだよ、それぞれの特徴なんだから」と語りかけてくれた。鈴木勇にとっては大きな自信となり、今後の野球人生で背中を押し続ける言葉になった。

 主将の上田太陽内野手は「僕は(イチロー氏のバットを)振れません。凄い方のバットなので、まだ自分には合っていないというか、そこまで達していないというか…。甲子園で結果を残して認められたら、スイングしてみよかなと思っています」と恐縮しきり。ただ、バットを振った鈴木勇については「いい意味で細かいことにこだわらない性格」と評していた。

 ちなみにこのバット、選抜大会でも甲子園のベンチに持ち込まれるのかと思いきや、尾崎監督は「ぜひ持って行きたいとは思うが、管理が大変。いろいろセキュリティー上の問題が発生するかもしれない。学校と相談します」と心配顔。「イチローさんのバットをしまえる金庫を学校に用意してもらいます」とジョークも放った。

「いずれにせよ、イチローさんの思いを背負って戦うことに変わりはない」と指揮官。一昨年12月にイチロー氏から直接指導を受けた智弁和歌山高は、昨年夏に全国制覇を果たした。イチロー氏の神通力はバットを通し、球児たちにとてつもなく大きなパワーを与えるようだ。

【画像】「国宝級の宝物で、1番のお守り」と監督が表現するイチロー氏のバット

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