親子で「出来る方法を探す」 野球未経験の母が“万能女子選手”を育てる方法

ひとつの“出会い”で娘は勉強の虫になるきっかけとなった

 たっぷりと練習もするが、勉強を疎かにすることもない。昨年、絵菜さんの右ひじの怪我が“文武両道”に拍車をかけた。出会った医師の考えから野球の取り組み方に新しい視点が加わったため、医学の道にも進みたいと思うようになった。夢は「整形外科と女子プロ野球選手」という目標を掲げている絵菜さんについて「夢ができてから成長しました」と文子さん。打力も勉強の成績もここ1年で急激に成長した。

 一方で、勉強も練習も時間が長くなり、生活リズムが崩れてはいけないと、文子さん自身も空き時間の作り方を考えるようになった。まずは健康にも気を遣いながら時短する方法を模索した。活用したのは炊飯器。「2台買って、おかず用とご飯用に分けています」。火を使わず、学校から帰宅後、室内練習場に向かう前に食材を切り分けタイマーを押す。「煮物がどうしても多くなってしまうんですけどね……」と言って笑うが、帰宅後、すぐに食事が出るようになり、今では、帰宅後も2時間以上を勉強に費やしている。

 土日は目一杯、大好きな野球をやらせてあげたい――。ここからは父・隆幸さんの出番だ。隆幸さんは、国士舘高(西東京)、国士舘大を経て社会人野球・JR東日本で2年間プレーした。現在は絵菜さんが所属するチームの監督を務めている。「出来る限り長く野球をやってほしい。嫌いになってしまったら悲しいですから」と“自主性”を重んじた指導をしている。「間違った方向に進んでしまったときだけ、『違うよ』と伝えますね」と、絵菜さんだけでなく、チーム全員へ声をかけている。

 チームでも家でも、方針は一貫している。自由な風潮を掲げると人間は「楽な方向に行きがち」になってしまう。そのため、自ら“厳しさ”を追求する人の育成を目指している。言い訳をせずに「『出来ないではなく出来る方法を探しなさい』と伝えています」。絵菜さんにも雨や環境を理由に練習しないのではなく、室内練習場や家でも取り組める練習法など、工夫を凝らすことが大事だと考えている。

「言い訳をさせない」と表現すると“逃げ道”がないように見えてしまうが、優しく、大からかに絵菜さんの成長を見守っている。隆幸さんは、夜勤明けでも、本人が望めば、練習にひたすら付き合う日々。絵菜さんは、今年、NPBのジュニアチームに入り「NPB12球団ジュニアトーナメント」に出場することを目標にしている。「(勉強も練習も)努力しないと、医者もプロ野球選手もなることが難しいから」と理解し、自らを律して努力する。

 将来有望な12歳の女子選手の成長には、何事においても「出来ない」と諦めるのではなく、親子で「出来る方法を探す」という北村家の方針があった。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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