軟式ボールに施された「効果的に飛ばせる」デザイン 無数のハートが進化のカギ
老舗メーカー「ナガセケンコー」が明かす軟式ボールの変遷
少年野球では今、「J号」と呼ばれる軟式ボールが使われている。保護者が子どもの頃は「C号」でプレーしていただろう。長い歴史のある軟式ボール。誕生のきっかけは、小学生の内履き・ズック靴と自転車のペダルだった。
現在使用されている「J号」は2018年に導入された。ジュニアの頭文字から付けられ、それまで少年野球用だった「C号」より直径は1ミリ大きい69ミリ、重さは1グラム増えて129グラムとなった。同じタイミングで一般向けの「A号」と中学生向けの「B号」は、「M号」に代わった。他にも、小学校低学年用の「D号」があり、ボールの色から「オレンジボール」と親しまれている。
軟式ボールの歴史は長い。軟式ボールを製造・販売する老舗メーカー「ナガセケンコー」によると、最初に開発されたのは大正時代の1918年だった。京都少年野球研究会がつくったボールは直径5.7センチ、重さ84グラムと今よりずっと小さい。大きさは、紙を丸めて子どもたちに握らせて決められた。
最大の問題だったのが、どのようにゴムで球をつくるか。用いたのはズック靴と呼ばれる内履きだった。靴底に使われているのは、ひょうたん型のゴム。両足のゴムを張り合わせると球になった。ただ、これだけではボールが滑ってしまう。ヒントを得たのが自転車のペダル。当時のべダルは表面に凹凸のあるゴムが使われていた。軟式ボールにも凹凸を付ければ、滑らずに投げられると考えたのだ。
軟式ボールは構造、大きさ、デザインなどを変えてきた。そして誕生から100年以上が経ち、今では科学を取り入れるまで緻密なものとなった。その1つが、ディンプルと呼ばれるボールのくぼみ。現在の軟式ボールにはたくさんのハート形がデザインされているが、単なる模様ではない。専門家の理論では、「M号」の軟式ボールを効果的に飛ばすためには、縫い目を除いたボールの表面積に対して、ディンプルの面積を75%以上95%以下にするのが理想とされているという。旧来の「A号」ではこれが70.2%だったが、新型の「M号」は80.1%になっている。ナガセケンコーは、理想の範囲に入るように開発したのだ。
以前は丸だったディンプルの形はハートに変わった。実は、ハートではなくサクラの花びらをイメージしている。ディンプルの効果はボールの表面積に占める割合が大切で、デザインする形は丸でも三角でも、何でも構わないという。ナガセケンコーがサクラの花びらを選んだ理由は「遊び心」。緻密な計算に基づいて軟式ボールを製造する一方で、野球は遊びが原点という気持ちは失っていない。
(間淳 / Jun Aida)
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