「MAX150キロって言ってみたかったけど…」新庄監督に“下手投げにされた男”は今?

日本ハム・多田野数人2軍投手コーチ【写真:荒川祐史】
日本ハム・多田野数人2軍投手コーチ【写真:荒川祐史】

「見てないものはないというか…」異色経歴のコーチにも恵まれた

 見守る周囲の目にも、恵まれたようだ。3月、打ち込まれる鈴木に「ボールに力が伝わっていないよ」という話をしたのは、新任の多田野数人2軍投手コーチだ。自身の現役時代は右腕のオーバースロー、しかも見ている側にも体の硬さが伝わるような、カクカクした投球フォームだった。アンダースローは経験者が少ない分、指導も難しいと言われる。渡辺俊介はプロ入り当時、同じアンダーだった仁科時成氏が投手コーチだったのにも恵まれた。

 ただ、多田野コーチは「僕はBCリーグでコーチをしていた時、アンダーもナックルボーラーも、女子選手も見てきましたからね。見てないものはないというか……」と笑う。日本ハムを退団したのち、BCリーグの石川ミリオンスターズでコーチを務めた。とにかくプロのスカウトの目に止まってやろうとする“個性派”選手の集まりでの経験が、今の鈴木の指導に役立っているという。

 さらに「打者を見て投げる、いわゆる“ピッチング”は、1軍で活躍しようとするならいつか身につけなければいけないこと。鈴木には今がその時期だったのかもしれないね」と変身を見守るのは、木田優夫2軍監督だ。実は、球団フロントの一員として社会人野球時代の鈴木を見ている。当時の鈴木は横手からの剛球が特徴。自分でも「自分の球を投げようとばかりして、打者とかほとんど見ていませんでしたね」と振り返るほどだ。

 鈴木の前には「ボールが遅い分、打者を観察しないといけないので」という別の視界が開けた。打者を抑え込むのではなく、手玉に取る快感に目覚めつつある。多くの選手に1軍でチャンスを与えると公言する新庄監督のことだ。昇格の声も、そう遠くはないだろう。より“深化”させたアンダースローを見せつける時がやってくる。

〇著者プロフィール
羽鳥慶太(はとりけいた)
神奈川生まれ、名古屋や埼玉でプロ野球を熱心に見ながら育つ。立大卒業後、書籍編集者を経て北海道の道新スポーツで記者に。日本ハム担当記者を長年務めたほか、甲子園をはじめとしたアマチュア野球、WBCや北京五輪予選などの国際大会も取材。2018年の平昌冬季五輪も現地取材した。2021年からFull-Count編集部所属。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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