“おまけ”入学から名門校レギュラーに 強豪シニア監督が指導に生かす成功体験

回ってきた出番で5打数5安打、セーフティバントに見出した活路

 転機は1年秋だった。3年生が引退して新チームが始動。当時、野球部の寮には18の部屋があった。2年生が9人、1年生は佐藤監督を含めて9人で埋まっていた。ベンチ入りの人数は18人だったため、この18人がメンバーになると思っていた。ところが、寮生から選ばれたのは17人。唯一、外れたのが佐藤監督だった。

「ベンチには入れるだろうと甘い考えを持っていました。寮でご飯を作ってチームメートに出していました。怪我もしていないのにベンチ外になって、相当悔しい思いをしました」

 佐藤監督は、どうすればレギュラーになれるかを考えた。パワーでは勝てない。たどり着いた答えが「バント」だった。当時の監督は細かい野球を好むタイプだったため、自慢の走力を生かすための技術を磨いた。「ただするだけでは試合に出られません。セーフティバントを、どこに転がせばセーフになるのか良く考えました」。バントの構えをすると投手は三塁方向へ動く傾向があることや、足の速さを生かすには一塁手に取らせるのがベストと考えた佐藤監督は、一塁側へ転がす練習を重ねた。さらに、得意の守備も強化して出場機会が巡ってくるのを待った。

 チャンスがきたのは、2年生になったばかりの春の練習試合だった。レギュラーの内野手にサインミスが続き、出番が回ってきた。「絶対にチャンスはやってくる、その時に絶対ものにすると思っていました」。佐藤監督は、この試合で5打数5安打とアピールに成功。そのうち2本はセーフティバントを決めたものだった。武器を手にして、レギュラーに定着。パワーヒッターが並ぶ打線で、替えの利かないスパイスのような存在となった。

「生き残るための手段を考えました。今の子どもたちに参考になる部分はあると思います」と佐藤監督。試合に出るための道は1つではない。現役時代に体現した“チャンスを掴む方法”を、今は指導者として選手に伝えている。

(間淳 / Jun Aida)

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