「緊張したら感謝しろ」4強進出の上武大、大逆転の背景に一糸乱れぬ“深い礼”

準決勝進出を決めた上武大学ナイン【写真:中戸川知世】
準決勝進出を決めた上武大学ナイン【写真:中戸川知世】

9回に一挙5得点で逆転勝利、試合後には“伝統”の約5秒の深い礼

 息詰まる接戦を制し、試合後の整列に並んだ。ナインは劇的勝利に興奮していたが、伝統の“深い礼”は乱れることはなかった。9日に神宮球場で行われた全日本大学野球選手権の準々決勝。上武大(関甲新連盟)は3点を追う9回に一挙5得点を挙げ、5-3で福岡大(九州六大学)を下した。スタンドを見渡した谷口英規監督は試合後「本当にありがたいですね。自分たちの力だけではない何かが働いたのだと思います」と見えない力に後押しされたことを強調した。

 大事にしていたのは「感謝」の2文字。指揮官の教えがドラマを呼んだ。常々、選手たちには「緊張したら感謝しろ」と言い続けており、選手たちが体現した。3点を追う9回無死二、三塁で打席に立った河野椋斗外野手(4年・尾道高)は、監督の言葉を思い出し、スタンドに目をやった。「サポートしてくれていたメンバーに、感謝の気持ちを送ってから打席に立ちました」。低めの直球を捉えると、打球は右翼への2点二塁打に。勢いに乗った打線はこの回、4安打4四死球で一挙5点を奪い、逆転に成功した。

 近年、全国大会で上位に進出するなど勢いに乗る関甲新連盟だが、東京六大学などと比較すると観客や報道陣の数は少ない。谷口監督は全国の舞台に立つことについて「これだけ注目されるのは、地方大学ではまずないので『色々な方に感謝をしなさいよ』とは伝えていました」と大会前から言い続けていた。この日の囲み取材でも、監督自身の口から10回以上も「感謝」という言葉が出ていたのが印象的だった。

 選手たちも理解し、大会前のミーティングで「サポートしてくれているメンバーを見てから打席に入ろう」と決めた。そして、試合前後には約5秒の“一糸乱れぬ”深い「礼」を披露。代々受け継がれている伝統の所作で、相手、審判、そしてスタンドの観客に敬意を示した。

 2013年の第62回大会以来の優勝を目指す。9年ぶり2度目の日本一まで、残り2つとした。指揮官は「(準決勝も)全力でぶつかっていくしかないですね」。土壇場での大逆転は奇跡でもなんでもない。選手たちの日ごろの“感謝”の行動が結果になって表れた。深々と、そして長く、頭を下げる角度も揃う気持ちのこもった挨拶。あと2回「勝利の礼」を披露したい。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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