NPB史上初、入団テストに挑んだ女性の今 30年前のグラウンドで生まれた“野望”とは
1次テストで不合格も「女が野球をしている姿を見せたい気持ちがあった」
驚くことに、硬式ボールを握るのも初めてだった。「小さい頃からプロ野球は好きでしたけど、ボールが違うとか細かいことは全然知らなかったんです。(硬球を持った時に)『なんだこれ、重いな』と思いました」と打ち明ける。入団テスト受験は“ぶっつけ本番”だった。
初めて握った硬球で挑んだ遠投は60メートルを記録し、50メートル走は7秒3をマーク。だが、男性挑戦者と同じ基準である合格ライン「90メートル以上、6.5秒以内」には届かず、女性挑戦者は全員1次テストで姿を消した。
結果は残念だったが、森井さんは清々しい気持ちで球場を去った。それはこの挑戦に対するもう1つの“野望”が達成できたからかもしれない。「女が野球をしている姿を見せたいという気持ちもあったかもしれませんね」と当時の心情をおぼろげに思い出す。多くの報道陣に囲まれ、一躍話題の人に。この報道をきっかけに女子野球という存在を世に知らしめることができたのだ。
森井さんは55歳になった現在も現役として軟式野球チーム「モンスターズ」に所属する。ランニングを週3度行うなど、身体作りも欠かさない。2020年以降、NPBの球団名を冠した女子チームが多く誕生しているが、もしオリックスが女子チームを創るなら―――。
「もちろんメンバーにしてもらえるなら、今でもなりたいです」と言い切る。「指導者よりは選手がいいですね。こんな歳になってしまいましたけど、まだまだ動けますよ」と即戦力を宣言。その表情は日本の女子野球界を切り開いてきたレジェンドとしての自信に満ちていた。