命令や強制は逆効果 好奇心を尊重する少年野球日本一監督の子どもの動かし方

多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:間淳】
多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:間淳】

辻監督が率いる多賀少年野球クラブ、全国から指導者が練習視察

 2年連続で日本一を達成するなど、毎年のように全国大会で上位に進出している強さは、どこにあるのか。滋賀・多賀町の小学生軟式野球チーム「多賀少年野球クラブ」の練習には、全国各地から指導者が視察に来る。強さの秘密を解き明かす連載の第12回は「子どもを動かす方法」。辻正人監督は選手たちの好奇心を大切にし、命令や強制をしない。

 多賀少年野球クラブは、昨年から幼児指導の門戸を開いた。これまで小学1年生が最年少だったチームでは現在、年中の園児がプレーしている。土日の練習では、幼児と初心者は3時間、野球の基礎を学ぶ。

「チームには年少から入れるので、練習の体験には園児も来ます。グラウンドにはウルトラマンの人形があって、体験に来た園児はおもちゃに夢中で練習に来ない時もあります。保護者は申し訳なさそうな顔をして子どもを説得しますが、子どもは当然なかなか動きません」

 園児の練習体験中、辻監督の表情は保護者と対照的だ。柔和な顔で子どもを見守り、急かすことはない。目の前にいる園児に野球の楽しさを伝えるには、どの引き出しを開けるのがベストかを考える。

「両親自身が子どもを連れて行きたい場所(練習場)へ移動するように伝えます。そして、両親にゴロを転がして『うまい、うまい』と声をかけるんです。お母さんが楽しそうに体を動かす様子に気付いた息子は、両親のところに移動してまねをします。父親、母親、息子の順番でゴロを捕る練習です。命令では子どもは動きません」

 体験に来た子どもや、チームに入ったばかりの子どもは、1人でなら練習しても、全体の輪に入れないことがある。辻監督は、そうした子どもたちに全体練習に加わるよう指示しない。

「最初は、元々チームでやっている子に圧力を感じてしまう子どもがいます。『輪に入って』と言っても難しいので、全体練習の場所を、その子がいる方に少しずつ移動していきます。1人で練習していた子どもの場所を自然と全体の練習場所にしてしまうのです。問題を解決する時に、どんな方法が当たるか分かりません。じっくり考えるよりも、色んなやり方を数打って試す方が正解に早くたどり着けると思っています」

練習中にフェンスを登る園児を静観「好奇心を潰してしまう」

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