容易ではなかったSNSでのビッグボス指令… 日本ハムの“執念先輩”が乗り越えた葛藤

今川を前に進ませる「野球が好きで、うまくなりたい」という思い

 開幕から3カ月弱を1軍で過ごした。これだけ長い間1軍にいたのは初めてだ。経験も、改めて自分の打撃を考える原動力になっている。成功も失敗も積み重ねたからこそ、わかる世界がある。「野球って難しいなと。打撃も守備も、もう1回り、2回り大きくならないと1軍の試合には出続けられない。どれだけ数字を残せるか残せないかで全てが決まる世界ですから」。あくまで前向きでいようと努めていた。

 今川は雑草の歩みを続けてきた選手だ。東海大四高(北海道)では夏の甲子園にこそ出場しているものの、定位置はつかめなかった。東海大札幌に進んでも、下級生のころはベンチ入りできずスタンドから応援する側だった。高校の屋内練習場には、伏見寅威(オリックス)ら、OBプロ野球選手のユニホームが飾ってある。出入りするたびに眺めながら「いつかは俺もプロに」と誓う日々だった。どんな苦しい日々も、なぜ野球をあきらめなかったのか。考えてみると、一つの答えに行き着くという。

「野球が好きで、うまくなりたいという気持ちがあるからです。ずっと探究心、向上心を持ってやれている。今も苦しいですけど、嫌いになってはいないので」

 大ベテランのスカウトに、こんな話を聞いたことがある。プロに誘うかどうか迷った時、最後の判断基準とするのは「野球が好きかどうか」だという。ぎりぎりのところまで追い込まれたとき、どれだけ野球を好きかがモノを言うのだと。今川はこの点で判断すれば、合格点を大きく超える。苦悩、葛藤と戦いながら迎えた終盤戦に、あらためて注目している。

著者プロフィール
〇羽鳥慶太(はとりけいた)神奈川生まれ、名古屋や埼玉でプロ野球を熱心に見ながら育つ。立大卒業後、書籍編集者を経て北海道の道新スポーツで記者に。日本ハム担当記者を長年務めたほか、甲子園をはじめとしたアマチュア野球、WBCや北京五輪予選などの国際大会も取材。2018年の平昌冬季五輪も現地取材した。2021年からFull-Count編集部所属。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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