巨人はなぜ大勢を1位で指名できたのか 元巨人左腕、苦労人だったスカウトの眼力

巨人のドラフト1位ルーキー・大勢【写真:荒川祐史】
巨人のドラフト1位ルーキー・大勢【写真:荒川祐史】

岸敬祐スカウトは1軍登板こそないが、巨人の支配下選手だった

 リードして迎えた最終回。巨人の守護神の名前がコールされると、東京ドームは大きな歓声と安堵感に包まれる。巨人の未来を明るく照らす豪腕ルーキー・大勢投手が守護神として君臨。ついに30セーブ目前に迫っている。活躍するたびに、一人のスカウトの顔が思い浮かぶ。近畿の大学を中心に見てまわる巨人・岸敬祐スカウトは1軍登板こそないが、2013年まで巨人のユニホームを着ていた投手だった。

 大勢の活躍を気にしながら、岸スカウトは次の“金の卵”発掘に時間を注いでいた。5月に神宮球場で行われた全日本大学選手権で会った際に筆者は「(担当選手の)大勢投手の活躍、おめでとうございます」と声をかけた。その指名した“眼力”を称えると「ありがとうございます。彼(大勢)が本当に頑張ってくれているからです」と喜びよりも安堵感の方が強かった。親心が伝わってきた。

 スカウトの仕事は過酷だ。担当エリアの試合を見ては、自分の足で所属チームの監督ら指導者にあいさつし、練習を視察する。岸スカウトは大勢が関西国際大2年の時から密着マークしていた。名前はもっと前から知っていた。

 だからといって、時間をかけて見た選手をチームが指名するとは限らない。指名したとしても、抽選で外れてしまうケースがある。担当選手と結ばれる可能性は低く、そこで1年目から活躍する確率はもっと低い。これまで密着した選手が他球団との重複指名で外れたことも、ポジションの兼ね合いで指名されなかったことも多くあった。

 巨人はなぜ大勢を指名できたのか。いろいろな背景があるが、岸スカウトの信念と、球団がその眼力を信じたことにある。

 大勢は大学3年生の春に右肘を痛めた。昨年5月には疲労骨折をしていたため、公式戦登板を見る機会は少なかった。そのため、スカウトの中で評価は割れた。

 少ない機会の中、岸スカウトはリーグ戦の登板だけに頼らなかった。オープン戦で投げた1球や、普段からの練習も見逃さなかった。怪我していた時期の野球との向き合い方を見られたのは大きかった。大学生ながら大勢は大きな怪我に自暴自棄になることなく、地道にトレーニングを続けていた。岸スカウトはグラウンド以外でも治療やトレーニングをしていることも把握していた。耐え抜いて培った精神力がどれだけプロを戦う上で重要か、岸スカウトも元プロの投手として分かっていたからだった。

現役時代はヤクルト石川のような柔軟なイメージの投手だった

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY