肩・肘の怪我の確率が14.9倍に 投球制限だけでは防げない、“強度”を上げる危険性

急激に投球強度を上げることは怪我につながる【写真:荒川祐史】
急激に投球強度を上げることは怪我につながる【写真:荒川祐史】

投球数を制限をすることが多くなったが、怪我の原因は1つではない

 肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。

 では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は貝沼雄太さん。テーマは「投球時の強度設定について」です。

◇◇◇◇◇◇◇

 投球数の増加に伴う怪我を予防するために、最近では試合での投球数を制限をすることが多くなりました。しかし、怪我の原因は1つではありません。普段から球数を投げていない選手が試合で全力投球すると、急に負荷が上がることにより、投球数が少なくても怪我を生じやすくなります。

 この連載の「投球で肩・肘にかかる負荷を数値化すると? 疲労をモニタリングする方法」という記事では、疲労をモニタリングすることで、適切な運動強度を知ることができると紹介しました。今回は、急激に投球強度を上げることでケガにつながる可能性についてご説明します。

 まずは、運動強度の算出方法について。この連載の「投球で肩・肘にかかる負荷を数値化すると? 疲労をモニタリングする方法」でも紹介した方法ですが、自覚的運動強度(RPE)と練習時間でACWR(acute:chronic workload ratio)という数値を算出します。RPEは選手に0~10の11段階で運動強度を入力してもらうもの。ACWRはこれを使い、「3~7日間の運動強度の平均値」を「3~6週間の運動強度の平均値」で割ることで算出でき、過去の運動強度から現在の適切な運動強度を設定することが可能になります。

 この数字が0.8を下回る、もしくは1.3を上回ると怪我をしやすくなると言われています(※1)。エンゼルスに所属する大谷翔平投手も使用しているPULSE Throwでは、投球で生じている肘関節の負担をACWRで算出することができます。また、古島医師が監修する「スポメド」は疲労度と練習時間を入力するだけでACWRを計算し、0.8以下もしくは1.3以上で通知する仕組みになっています。

 今回紹介するのは、18人の大学野球選手にシーズンを通してPULSE Throwを着用させ、ACWRを算出した研究。シーズン中に怪我をしたのは6人であり、そのうち5人はACWRが1.27を超えていました。ACWRの平均値は、怪我した選手が1.35、怪我をしなかった選手が1.12でした。ACWRが1.27を超えると、怪我する確率が14.9倍高くなったと報告されています。

 急激な負荷は未来の怪我を引き起こす可能性があります。疲労をしていない状態が良いということではなく、適切な投球強度による疲労は必要ということです。日頃から適切な負荷をかけることが怪我を予防する一つの方法と考えられます。まずは疲労を数値化し、モニタリングすることが重要。選手に聞きさえすれば、疲労を数値化して管理することが可能になります。ぜひチームのコンディショニング管理として行なってみてください。

▼参考文献
※1 Gabbett TJ. The training-injury prevention paradox: should athletes be training smarter and harder? Br J Sports Med. 2016, 50(5):273-80.
※2 Mehta S. Relationship between workload and throwing injury in varsity baseball players. Phys Ther Sport. 2019,40:66-70.

○古島医師が監修する肩・肘の故障予防アプリ「スポメド」のダウンロードはこちらから
https://info.spomed.net/

(Full-Count編集部)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY