プロ野球で日本一5回→女子野球で辣腕監督 元“万能選手”が生かす名将の教え
岩隈久志氏が創設した「青山東京ボーイズ」で監督を務める広橋公寿氏
現役時代にリーグ優勝6回、日本一5回を経験し、のちに女子野球の監督としても日本一を達成した男がいる。選手としては西武、中日、ダイエー(現ソフトバンク)に在籍、プロでは投手と捕手以外のポジションをこなしたかつてのユーティリティプレーヤー・広橋公寿氏だ。現在は青山東京ボーイズの監督。「この中からプロ野球選手を」との目標を掲げ、子どもたちへの指導にすべての力を注いでいる。
青山東京ボーイズは、広橋氏の長女の夫でもある元メジャーリーガーの岩隈久志氏がオーナーを務め、今年創設したチームだ。練習では子どもたちの笑い声が響く。広橋氏は背面キャッチを披露したり、ジョークを飛ばしたりしてムードアップ。「ウチは明るく、元気に、楽しく、ですからね。でもメリハリはつけてますよ。例えばグラウンドでダラダラしているとちゃんと言います」と声を大にした。
広橋氏は東海大五(現在は東海大福岡)、八幡大(現在は九州国際大)、東芝を経て、1980年オフにドラフト外で西武に入団。俊足、好守、巧打で知られ、特に打撃では左キラーとしてチームに貢献した。その後、2度のトレードを経験し、1991年に現役引退。西武、楽天などでコーチを務め、2020年からエイジェック女子硬式野球部監督に就任。2021年には全日本選手権優勝、全日本クラブ選手権優勝、ヴィーナスリーグプレミア7優勝、年間女王決定戦優勝と2度も日本一に導いたが、その年限りで退任していた。
そんな広橋氏が次のステージに選んだのが、青山東京ボーイズだ。「基本的には野球を通しての人間教育ですから、まずは挨拶、礼儀とかそこら辺から入ります」と話す。実績十分の指揮官には、影響を受けた名将がいる。西武元監督の広岡達朗氏だ。特に守備面。「わかりやすかったし、一生懸命、指導していただいた。広岡さんの基本的な教えを自分の中でブレンドしてやっています」と感謝している。
忘れられない思い出もある。舞台は札幌円山球場での近鉄戦。「大事な試合に僕はセンターを守っていました。近鉄の1番バッター・平野(光泰)さんの打球方向が頭の中にあったので、定位置より5、6メートル先の右中間寄りに自分で変えたら、そこに来たんです。すれすれで捕ったんですよ」。ベンチに戻ったら広岡監督から「ナイスプレー」との声。「今まででもっともうれしかったですね」という。
「広岡さんの『ナイスプレー』はいいプレーをしたからではないんです。その前に守備位置の確認とか総合的な準備ができていたからなんです」。この出来事は現在にもつながっている。「子どもたちにも言うんです。自分で考えてやってみようって。野球は準備のスポーツですからね」。広橋氏には夢もある。「第1目標はプロ野球選手になってほしいですけど、それがダメでも指導者になってほしい。僕らの野球を次の世代にも伝えてほしいんです」。集大成の指導はさらに続く。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)