トイレでまさかのトレード成立「ここなら大丈夫」 元オリ右腕・野田浩司氏、拒んでいた移籍が導いた“栄光”
オリ移籍1年目の93年に最多勝、95年に1試合19奪三振を記録
直後、表に出て、報道陣にも「今、球団に返事しました」と伝えた。自宅のトイレで決着したトレード。「だから、めっちゃ覚えているんですよ」と野田氏は当時を振り返り、笑みを浮かべた。「返事はしたものの、気持ちの整理はなかなかつかなかったんですが、あれが年末だったから良かった。年が明けたら、なんだか気持ちが切り替わったんです」。西宮から神戸へ、家の引っ越しも決め、探し始めた。阪神の野田からオリックスの野田へ。初めて覚悟ができた。
「移籍先がオリックスで良かった? それは絶対的にそうですね。優勝も2回(1995年、1996年)できましたし、常に優勝争いの中でできたんで」と野田氏は言い切る。最多勝のタイトルは移籍1年目の1993年に17勝をマークしてつかんだ。1試合19奪三振の日本記録は1995年4月21日のロッテ戦で達成した。後日、トレード仕掛け人の一人である中村勝広氏には「よく俺に感謝せいって言われましたね。冗談でね」。
人生、何が起きるかわからない。1992年の年末にあったトレード通告。短い時間にいろんなことがあり、一気に変わっていったが、野田氏にとってはすべてが忘れられない出来事ばかりだ。そして、その経験があって今がある。プロ野球では2022年オフシーズンも、いくつかのトレードがまとまった。その誰もが複雑な思いになりながらも、懸命に気持ちを切り替え、新天地で成功しようと意気込んでいることだろう。あの時の野田氏のように……。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)