「今日先発と思うもの手を挙げろ」 優勝かV逸決定か…運命の一戦で出た“仰天指令”

「焼処 旨い物 海鮮山」のオーナーを務める小松辰雄氏【写真:山口真司】
「焼処 旨い物 海鮮山」のオーナーを務める小松辰雄氏【写真:山口真司】

勝てば優勝、負ければV逸のシーズン最終戦に先発…完封で胴上げ投手に

 忘れられないのは優勝へのマジック「12」が点灯した9月28日の巨人戦(ナゴヤ球場)という。「相手は江川(卓投手)さんで、2-6で負けていたんだけど、9回裏に打線が4点とって追いついた。それで10回表に登板したんだけど、マウンドで足が震えた。プロでそうなったのはあの時だけだね」。大投手・江川を攻略した試合を壊すわけにはいかない。負けるわけにはいかない。そう考えたら足の震えが止まらなかったのだ。

 いつもと違うマウンド。とにかく必死だった。「2死一、二塁になったけど、何とか抑えた。その裏、大島(康徳)さんがサヨナラヒットを打ってくれて、マジックがついたんだ」。巨人との優勝争いは最後までもつれた。10月18日、勝てばV、負ければV逸のシーズンラストの130試合目の大洋戦。「先発が誰もいなくなって、俺が投げるしかない感じだった」。先発は開幕戦以来。しかも10月15日のヤクルト戦(神宮)に4番手で3回1/3を投げており、中2日だったが、関係なかった。

「試合当日(1軍投手コーチの)権藤さんが外野にピッチャーを集めて『今日、先発と思うもの、手を挙げろ』って言われたから、手を挙げたら『じゃあ投げろ』って。他に手を挙げた投手はいなかった。みんな、俺が投げると思っていたんだよ」。そんな中、2安打完封勝利で優勝を決めたのだから、すごいとしかいいようがない。でも、さらに過酷な戦いが待っていた。広岡西武との日本シリーズ。セ・リーグ優勝決定から中4日での先発を言い渡された。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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