平成の世にもいた“追いロジン”右腕 打者もクレームつけた「消える魔球」伝説

広島で投手として活躍し、監督も務めた佐々岡真司氏【写真:山口真司】
広島で投手として活躍し、監督も務めた佐々岡真司氏【写真:山口真司】

佐々岡真司氏が回顧…「拭け」と言われても「無視していた」

 野球漫画「巨人の星」の主人公・星飛雄馬は大リーグボール1号、2号、3号を武器にした。2号は「消える魔球」。投じたボールが土煙とともに一瞬消えるという設定だったが、元広島投手で野球評論家の佐々岡真司氏も「消える魔球」の“使い手”としてテレビ番組などで取り上げられたことがある。こちらの“原因”は土煙ではなく白煙。たっぷりつけたロジンとともに投じられたボールのことで、腕が振れている時ほど、粉がポンと出てきたという。

「滑るのが嫌だったから、毎回毎回ロジンをつけていたから、粉が飛ぶってね」と佐々岡氏は苦笑しながら“消える魔球”伝説を振り返った。状態が良ければ“白煙”も増える傾向にあったという。「しっかり切れていれば、腕が振れていれば、粉がポンと出るのだろうし、調子が良ければ、粉が出るからね」。実際、クレームをつけられたこともあったそうだ。「あまりつけすぎると拭けと言われた。バッターも見づらいとかね」。

 それでも佐々岡氏はやり方を変えなかった。「ルール上、しょうがないですよね。粉のロジンなんで、だったらアメリカ製の、ああいう粉が出ないようにしてくれればいいしね。審判がちょっと言ってきた時があったと思うけど、無視していましたね」。こればかりはどうしようもなかったわけだ。「まぁ、今でもそういうピッチャーっているじゃないですか」。令和の現在も、日本ハム・伊藤大海投手のようなロジンの“使い手”はいるが、佐々岡氏のボールは実際に打者目線で「消える」という評判もあった。

 それは佐々岡氏の耳にも入っていた。「スライダーが消えるとかね。キレがいい時は打ちにいったら外れていたって。1年目、2年目のスライダーは真っ直ぐと思って打ちにいったら、消えるってね。抑えの時のカーブも消えるというより真っ直ぐが来たと思ったら、ポンと落ちるって」。プロ1年目は13勝17セーブ、2年目には17勝をマークしてリーグMVP、沢村賞、最多勝、最優秀防御率とすさまじい成績を残した裏には、この“消える魔球”効果もあったということか。

「僕だって(ヤクルトの)伊藤智のスライダーはスゲーなって思いましたよ。打ちにいったらかすりもしないしね。これが本当に消えるという感覚だよね」。佐々岡氏はこう付け加え、決して自分だけではないことを強調したが、当時の打者陣にとって、カープの背番号18がそれほどまでに手強い相手だったのは間違いない。

 そんな佐々岡氏にも転機はあった。5勝11敗6セーブに終わったプロ9年目、1998年。その年のオフからパーソナルトレーナーをつけて、体のケアから投球フォームまで見直したことだ。翌1999年は15勝をマーク。5月8日の中日戦(広島)ではノーヒットノーランも達成するなど、見事に復活したが、このきっかけは優子夫人だった。「30歳を超えて『何か変えないといけないんじゃないの』と嫁が言って、そのツテでトレーナーの方と出会えたんです」と感謝した。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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