“抑え失格”の烙印押された逆転満塁弾 正念場で下された仰天指令「勇気がいったよ」

スピード差をつけた“3種の直球”を駆使し、完封勝利を飾った

 そう振り返られるのも、その後があったからだろう。仙台の悲劇をきっかけに、先発への完全転向を模索することになった。「(投手コーチの)権藤(博)さんにストレートを3種類投げろって言われた。140キロと130キロと120キロみたいな感じ。まず強、中、弱でキャッチボールしろって。強は一番簡単。中と弱が難しかったよ」。ストレートの球速の緩急でタイミングをずらす。かつて150キロを超えるスピードボールで打者を封じてきた鈴木氏にとって、覚悟を決めてのニュースタイルだった。

「勇気がいったよ。だって(中と弱は)牛耳るボールじゃないでしょ。打たせるボールでしょ。もっというと打ってもらわないと困るボール。だけど、もし、人がいないところに飛んだらしょうがないっていう気持ちの準備ができたら面白かった」。キャッチボールでできるようになっても、実戦ではなかなか投げられなかったという。「そりゃあそうでしょ。チェンジアップじゃないんだからね。握りは一緒だからね」。

 強・中・弱で腕の振りも同じは難しい。それを悟られないようにするフォームも身につけた。しかも1軍にいながら、リリーフで登板しながら自分のものにしていった。「まだ相手が俺にボールが速いってイメージがちょっとでも残っている間にやらなければ駄目だったんでね」。

 練習を重ね、ついに結果が出たのは7月1日の巨人戦(ナゴヤ球場)。1-0。わずか88球でプロ初完封勝利を収めた。まさかの逆転サヨナラ満塁アーチ被弾から、鈴木氏の登板はちょうど10試合目だった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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