吉田正尚は「今までにない日本人打者になる」 井口氏が分析する“イチロー級”の能力

野球評論家の井口資仁氏【写真:荒川祐史】
野球評論家の井口資仁氏【写真:荒川祐史】

「2年目以降は正尚の方が優位に立つ」と語る理由とは

 3日(同4日)に行われたレイズとのダブルヘッダー第1試合では、最終打席に放った打球が一塁内野安打になりましたが、内野安打が多いことも彼の特徴の1つかもしれません。空振りでは何も起こりませんが、ボールをインプレーにすれば何かが起きる可能性が生まれる。打者としてのタイプは違いますが、正尚のコンタクト力はイチローさん並みだと思いますよ。

 内角攻めが続いたかと思えば、今度は外角一辺倒になったり、対戦投手も研究を重ね、あの手この手で攻めてきます。そこを打者はどう切り崩していくか。投打の勝負は追いかけっこのようなもので、一般的には初対戦の時は投手が有利だと言われています。移籍1年目の正尚にとって、これまで初対戦の投手がほとんどだったはず。それでも1球1球、1打席1打席、しっかりとアジャストできているのは素晴らしい。日本ではあまり見ない、追い込まれてから変化球という配球に苦労した部分もあったようですが、今では自信を持ってどっしりと構えて対応できています。

 正尚は決して派手ではないけれど、コンスタントに努力と結果を積み重ねていくタイプ。オリックス時代から実力ほどの注目はされず、どちらかというと玄人好みの選手でしたが、もっともっとクローズアップされていい選手だと思います。

 スキルだけではなく、非常に高い野球IQの持ち主でもあります。相手投手の持ち味を研究し、配球を読むことができる。選球眼がいいので際どいコースは打たない、もしくはファウルで切り抜ける。相手投手は投げる場所がなくなり、ボールが自然と内に集まってきたところでヒット。空振りをしないので、打ち損じを待つしかない投手は苦しいですよね。僕がロッテの監督をしていた頃も、かなり手こずらされました。

 正尚のように選球眼、コンタクト力、高い野球IQを持つ打者はなかなかいませんが、日本で言えば近藤健介(ソフトバンク)、メジャーで言えばルイス・アラエス(マーリンズ)でしょうか。希少価値の高い選手たちです。

 好調が続いているとは言え、シーズンはまだまだ続きます。対戦チームからのマークも厳しくなると思いますが、正尚はどちらかというと後半に状態を上げてくるタイプの選手。この早い時期に順応できたのは大きな意味があるし、少なくともこの状態をキープできるでしょう。さらに言えば、2年目以降は経験を積み重ねた正尚の方が優位に立ち、勝負を進められるのではないかとも思います。今までにない日本人打者になる可能性は十分にありますし、新人王も夢ではない。ここからの活躍を楽しみにしましょう。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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