オリの5年目が“大砲”へ進化…鷹のFA好打者との争い セイバー目線で選ぶ6月のパMVP
ペナント争いはソフトバンクとオリックスが抜け出しつつある?
4シーズンぶりに交流戦での勝ち越しを決めた6月のパ・リーグのパ・リーグの「月間MVP」を、セイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まずは、6月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
○ソフトバンク:15勝8敗
得点率4.27、打率.260、OPS.711、本塁打19
失点率2.97、先発防御率3.35、QS率34.8%、救援防御率1.75
○オリックス:14勝8敗
得点率3.86、打率.239、OPS.669、本塁打20
失点率3.05、先発防御率2.38、QS率68.2%、救援防御率3.70
○日本ハム:10勝12敗
得点率3.14、打率.239、OPS.651、本塁打17
失点率2.96、先発防御率2.59、QS率72.7%、救援防御率2.75
○楽天:10勝13敗
得点率3.39、打率.249、OPS.667、本塁打14
失点率4.81、先発防御率4.49、QS率34.8%、救援防御率3.87
○西武:9勝13敗
得点率2.64、打率.217、OPS.611、本塁打15
失点率3.28、先発防御率2.81、QS率59.1%、救援防御率3.23
○ロッテ:8勝12敗2分
得点率3.24、打率.217、OPS.597、本塁打13
失点率4.52、先発防御率4.36、QS率45.5%、救援防御率4.42
昨季のペナントレースで、勝率が並んで首位となったソフトバンクとオリックスがこの6月に本領を発揮し、他の4チームとの差をつけ始めてきた。ソフトバンクは6月の平均得点が4点台、平均失点が2点台と投打ともに大きく改善してきた。特に盤石だった救援陣がさらに強固になり、6月の救援防御率は1点台。9回の失点確率もわずかに4.8%だ。
オリックスは5月に比べると打率、OPSともに下降傾向ではあるが、それを補うべく先発投手陣が踏ん張り試合を作ってきた。6月の先制率は63.6%と12球団トップである。
各チームのエース級が揃って好成績の投手部門
そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。RSAAの上位ランキングは以下の通りとなった
○山本由伸
RSAA:7.12、登板4、イニング30回、防御率1.80、WHIP0.73、奪三振率9.00、奪空振り率12.6%、QS率75%、HQS率75%
○佐々木朗希
RSAA:6.18、登板4、イニング26回、防御率2.42、WHIP0.92、奪三振率12.81、奪空振り率14.3%、QS率75%、HQS率50%
○伊藤大海
RSAA:5.99、登板4、イニング28回、防御率2.57、WHIP1.07、奪三振率8.04、奪空振り率10.3%、QS率100%、HQS率50%
○平良海馬
RSAA:5.31、登板4、イニング28回、防御率1.93、WHIP0.96、奪三振率11.57、奪空振り率12.6%、QS率100%、HQS率100%
○リバン・モイネロ
RSAA:4.19、登板11、イニング10回2/3、防御率0.84、WHIP0.47、奪三振率15.19、奪空振り率30.3%、4セーブ、3ホールド
○山岡泰輔
RSAA:3.81、登板4、イニング23回1/3、防御率1.54、WHIP1.29、奪三振率9.26、奪空振り率12.3%、QS率75%、HQS率25%
なお、上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。
○松井裕樹
RSAA:3.07、登板10、イニング9回1/3、防御率0.96、WHIP0.86、奪三振率10.61、奪空振り率23.4%、8セーブ
上位4位まで、各チームのエース格の投手が名を連ねている。共通するのは「イニングイーター」であるということ。特に伊藤大海は5月2日以来8試合連続で7イニング登板となっており、すべてクオリティスタート(QS)を達成している。平良海馬も4試合すべてで7イニング以上登板、すべてハイクオリティスタート(HQS)となっている。さらに山本由伸は4試合中3試合で8イニング登板、3試合ともHQSを達成している。この4投手の中でも、「RSAA」最高値を記録したのは山本である。特筆すべきは、6月の4試合で打者115人に対し与えた四死球がわずか2つであるということ。絶妙なコントロールで試合を支配し、チームの浮上に大きく貢献した山本由伸を、セイバーメトリクス目線で選ぶ6月のパ・リーグ月間MVPに推薦する。
FA移籍の近藤健介が本領発揮も…その上を行くオリの強打者
打者の評価としては、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りとなった
○頓宮裕真
wRAA:14.28、86打席、OPS1.210、打率.378、本塁打7
○近藤健介
wRAA:13.26、92打席、OPS1.166、打率.342、本塁打6
○アリエル・マルティネス
wRAA:6.42、62打席、OPS.968、打率.294、本塁打3
○柳田悠岐
wRAA:5.80、96打席、OPS.800、打率.244、本塁打4
○小郷裕哉
wRAA:5.37、88打席、OPS.830、打率.325、本塁打2
○外崎修汰
wRAA:4.87、89打席、OPS.837、打率.284、本塁打2
○森友哉
wRAA:4.81、79打席、OPS.892、打率.260、本塁打6
○渡部健人
wRAA:4.20、74打席、OPS.832、打率.275、本塁打3
○グレゴリー・ポランコ
wRAA:3.92、49打席、OPS.899、打率.326、本塁打2
6月のパ・リーグで大きく勝ち越したソフトバンクとオリックス。この2チームの上昇に大きく貢献した近藤健介と頓宮裕真の一騎討ちとなった。今季からソフトバンクの3番を担う近藤だが、5月は打率.235、出塁率.356といわゆる「らしくない」成績であった。しかし6月に入ると打率.342と回復。四球数18、出塁率.467は12球団トップと「らしさ」を発揮し出した。それに加え、月間6本塁打と長打も披露。6月首位ホークスの攻撃の要となった。
亜大から入団して5年目の頓宮は、6月30日時点でパ・リーグ唯一の3割打者であり、好調をキープしている。しかし5月と6月では大きな変化があったのが長打力だ。5月の頓宮は長打率.405、本塁打はなかったのに対し、6月は長打率.757、本塁打7本と大きく改善したのである。wRAAやOPSなどの成績を比較すると、わずかの差ではあるが頓宮に軍配が上がった。ということで、昨年まで首位打者争いの常連だった吉田正尚の穴を埋めて余りある成績を残しつつある頓宮裕真を、6月の月間MVP、パ・リーグ打者部門に推薦する。
○鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。
7月21日「セイバー語リクスナイトinYOKOHAMA」を開催。https://www.loft-prj.co.jp/schedule/naked/253137
コミュニティサイト「鳥越規央のデータ野球部」を開設。https://butaiura.fan/community/torigoenorio/
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。