埋もれた素質を伸ばすために 投球・打球を“見える化”…アマ球界「データ活用」の新潮流

タブレットに表示された「Rapsodo」で計測したピッチングのデータ【写真:高橋幸司】
タブレットに表示された「Rapsodo」で計測したピッチングのデータ【写真:高橋幸司】

最新テクノロジーを取り入れた数々のデータ計測機器が出展

 エンゼルス・大谷翔平投手が本塁打を打つと、打球速度や角度がすぐさま数値化され、中継画面に表示される。映像や技術を駆使し、野球の様々な要素が“見える化”される時代。メジャーリーグや日本のプロ野球では「データ活用」が当然のこととなったが、そうした流れはアマ球界・少年野球界にも広がりつつあるようだ。6月末に東京・有明の東京ビッグサイトで開催された展示会「Japan Sports Week 2023」にも、最新テクノロジーを取り入れた様々なデータ計測機器が出展されていた。

 その中でも、ひときわ大きな展示ブースを設けていたのが「Rapsodo(ラプソード) Japan」。野球やゴルフの投球・打球をカメラとレーダーで計測・分析する機器を販売する会社だ。野球ではピッチング、バッティング、さらにはその両方を計測できる商品をラインナップしており、MLBやNPB球団はもちろん、最近では甲子園に出場する強豪校から中学硬式まで、アマ球界にも導入するチームが増えてきている。

「ピッチングでは球速、回転数、回転軸、リリースポイントの位置や角度など、バッティングでは打球速度、角度、回転数、打球方向や飛距離などが計測できます」と説明してくれたのは、同社のプロダクトマーケティングマネジャー・花城健太さん。カメラ・レーダーで捉えられた投球・打球のデータは、すぐさまアプリを通してタブレット上に表示され、自分が今、どのような球を投げたのか・打ったのかを瞬時に見ることができる。

「自分の特徴を可視化できるのが一番のメリット。例えばストレートが伸びているのか、それともカットしたりシュートしたりしているのか。今までは感覚的にしかわからなかったところが、客観的に数値で把握でき、自分の感覚とのすり合わせができるようになります」

東京ビッグサイトで開催された展示会の様子【写真:高橋幸司】
東京ビッグサイトで開催された展示会の様子【写真:高橋幸司】

指導者の意識に変化「アマチュア球界に商品を訴求させたい」

 とはいえ、決して自分の欠点を洗い出すために使う、というものではないという。「個性を伸ばし、自分の“生きる道”を探し出せるのが大きいのです」と花城さん。実際にとある高校では、指導者が計測データをもとに投手にサイドスローへの転向を勧めたところ、当初は拒んでいた投手も納得してフォーム改造に取り組み、主戦級に育った例もあるという。

「子どもたちにとっても、数値として見せられれば納得できるし、モチベーションの向上にもつながります。漠然と練習をするよりもPDCA(計画・実行・評価・改善)をうまく回せるようになり、練習の効率化にもつながります」と花城さん。埋もれた素質を見いだし、新たな生きる道を提示し、効率良い育成につながる……。データ活用には、そうしたメリットがあるというわけだ。

 他にも、モーションキャプチャーで動作解析をしたり、マルチアングルで試合映像を捉えたり、プレー映像を1球ごとに再生・分析できたりなど、様々な技術を売りとした企業が出展していたが、話を聞くと、現在はプロ球団と取引をしていても、いずれは裾野が広い「アマチュア球界に商品を訴求させたい」と口をそろえていた。

 子どもたちは小さい頃から映像やデータに慣れ親しんでいる時代。さらには、アマ指導者の意識の変化も、関わりがあるという。「指導者が若い世代に入れ替わり、これまで上の世代に否定されてできなかった、映像やデータを使った練習ができるようになっていると思います。根性論も時には必要かもしれませんが、怪我の予防にとっても映像や数字、つまりは“事実”に基づいた指導は大切なことですから」と、とある企業の担当者は語ってくれた。

 もちろん、数値をとるからには、それらをきちんと読み解き活用できるリテラシーは必要だが、従来の“肌感覚”の指導によって伸び悩んだり、故障につながったりするような負の流れを変え、個々の特性に合った指導・育成ができる可能性を広げてくれるのが、こうした「データ活用」だ。今後も、この新しい潮流に注目していきたい。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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