「安かった」80万円の“先行投資” ドラ1右腕、高校時代に得た「計測機器」の知識と教訓

日本ハム・達孝太【写真:羽鳥慶太】
日本ハム・達孝太【写真:羽鳥慶太】

日本ハムの達孝太は、高校2年生から自身の「ラプソード」を所有

 日本ハムにドラフト1位で入団して2年目の達孝太投手は、高校時代から自分の「ラプソード」を所有していた。カメラとレーダーで投球を計測、分析する装置だ。もちろん決して安いものではない。ただ達は、試行錯誤の末に「この投資は安かったと思います」とまで言う。野球におけるデータ分析が育成世代にまで及ぼうとする中、いち早く手を伸ばした投手が語る活用法と、失敗談とは――。

 達がラプソードの存在を知ったのは、天理高1年の時だった。ダルビッシュ有投手が自身のYouTubeで、大リーグでのデータ活用について話しているのを見て、関心を持ったのだという。最初に知ったのは、各球場に設置されている弾道計測装置のトラックマン。「すごく価値があるものだと思ったんですが、いくら何でも高すぎるなと。5000万円とか出せないなと思ったんです」。その後調べていくとラプソードに行き当たった。こちらは80万円ほどだった。

「頑張って買ってもらおうと思って……」。まず母に、そして社会人軟式で監督も務めた父・等さんに話した。意外なことにOKが出て、手元に届いたのは高校2年生の1月だった。

 最初に何をしたかといえば、自分の投球の球速、回転数、回転軸、リリースポイントの位置や角度といった数値と、名投手のそれを比べることだった。「ダルビッシュさんのスライダーがこれくらい、シェーン・ビーバー(ガーディアンズ)のナックルカーブがこれくらいと、よく寮のパソコンで調べていました。スマホは使えなかったので」。

 そうしているうちに、自分のアピールポイントがわかってきたのだという。

「自分がどういうボールを投げているか、感覚以外の部分で分かるのは面白かったですね。意外と平均値より高い数字もあったりしたので」

数字にとらわれ過ぎての失敗談も…若い世代に伝えたい活用法

 ただ、投球を数字で表現できるようになったがゆえの失敗談もあった。

「例えば、プロ野球の選手のデータと比べた時に、カーブの時間軸が浅いなと思うと、(曲がりを)かけにいきます。そうすると確かに数値としては同じボールも投げられるようになるんですけど、そのためにフォームが崩れたり、試合で全く“使えない”といったことも起きました」

 達がこの“数字のわな”にはまったのは、3年になる春に出場した選抜甲子園の直後だったという。投球の目的は、打者を抑えること。そう思えるようになるまでに少し時間がかかった。「数値にとらわれ過ぎたというか……。こういう失敗も一つの経験だと思っています。バッターを抑えることが本質なのであって、数値は結果的にそうなればいい、今はそう思っています」。ただその感覚は、いち早くラプソードを使ったから手に入れたものだ。

「高校生や大学生は、やっぱりスピードや回転効率がいい数字として出ればうれしいんですよ。でも打者を抑えればいい。それが正解だと思います」

 その上で、ラプソードの利用法として、若い世代に伝えたいことがある。「たまに測って終わりじゃなくて、調子が悪い時に、数値がどうなっているかを把握しておくといいと思います。悪いのはフォームなのか、リリースなのか。感覚だけじゃなく理解しておくと、修正もしやすくなる」。

 達はラプソード導入から2年後、結果的にドラフト1位でプロの世界に飛び込んだ。今季は直球の威力を増すことを目的に、2軍で修行中。投球への興味も尽きない。「投資と考えれば、この80万円は安かったと思います」。ちなみに、購入代金は父にまだ返してはいない。「出世払いですね」。1軍での大活躍が、何よりの恩返しだ。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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