「幻の本塁打」騒動を振り払った“超積極打法” 15分の中断後…初球を打てたワケ
本塁打が二塁打に変更…直後に打席に入った一関学院の小野唯斗
第105回全国高校野球選手権の岩手大会は13日、盛岡市のきたぎんボールパークで行われ、昨夏の甲子園に出場した一関学院が2回戦から登場。盛岡中央を9-1で下し次戦へコマを進めた。本塁打が取り消されるというハプニングの直後に、いやなムードを振り払ったのが「5番・右翼」で先発した小野唯斗外野手(3年)だ。
場内が騒然としたのは、一関学院が3-0とリードして迎えた5回。「4番・一塁」の梅田昇希内野手(2年)が先頭で打席に立ち、左中間へ大飛球を放った。一度は三塁塁審が本塁打のジャッジをし、梅田も生還。ただその後、盛岡中央側がフェンス最上部のラバーに当たったのではないかとアピールし、審判団が協議のすえ判定が二塁打に変更となった。
約15分の中断の後、梅田は二塁に戻され試合再開。ここで打席に入った小野唯は、初球のカットボールが高めに甘く入ってきたところを見逃さなかった。とらえた打球は左翼フェンスを直撃する二塁打に。まるで騒動を上書きするような打球を飛ばし、チームは4点目を上げた。
高橋滋監督は「いつも通りの力を発揮してくれた。すぐにボールを見極めて、つなぐ打撃をしてくれた」と満足顔。そして小野唯は平然としたものだった。
「長い時間の中断がありましたけど、その間もスイングとか、試合で何ができるかということを考えていました」
15分の中断後に初球をフルスイング、分析と経験のなせる技
なぜ初球から迷わず振れたのかといえば、試合前からカットボールが来ると分析できていたのだという。中断中に頭の中を整理して、その通りのボールに食らいついた“超積極打法”だった。
一関学院は、春の岩手大会決勝は3-9で花巻東に屈した。東北大会も準々決勝で仙台育英(宮城)に0-8の完敗。小野は当時を「春は打てなくて本当に迷惑をかけて…」と振り返る。夏の大会まで1か月強で“突貫工事”に乗り出した。「逆方向へ打てるように、体重移動とかフォームとか、タイミングとか。本当に一から見直しました」。成果が試される夏初戦で5打数3安打。見事に間に合わせた。
チーム内では“夏男”と呼ばれる。盛岡中央とは昨夏の県大会決勝でも対戦し、小野唯が甲子園行きを決める決勝打を放った。甲子園で、延長の末に京都国際を下した1回戦でも「5番・右翼」で先発出場。「昨年から出させてもらっている以上、先輩たちの全国8強という目標は、自分たちが叶えたい」と最後の夏に意気込む。
打席では、豊かな表情を見せる。投球のたびに舌をペロッと出したり、声を出してみたり……。「意識的にやっているわけではないんですけど、狙い球が外れたりするとつい顔に出てしまうんですよね」。2年連続の甲子園、そしてその先の快進撃には“元気印”の爆発が不可欠だ。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)