「ゲンさんとトノさんに1秒でも早く返す」“神中継”を生んだ西武外野陣の意識
「あそこまで変なところへ跳ねたクッションボールは練習していない」
■西武 2ー0 日本ハム(16日・ベルーナドーム)
西武は16日、本拠地ベルーナドームで日本ハムに2-0で零封勝ちし、今季初の5連勝。日本ハムを抜き、1日以来15日ぶりに最下位から脱出した。2点リードで迎えた8回、ランニング本塁打を狙った打者走者を“神中継”で本塁で刺したプレーが、勝敗を分けた。
一瞬のもたつきも許されないプレーだった。8回2死走者なしで、途中出場の日本ハム・石井一成内野手が放った大飛球を追い、中堅手の長谷川信哉外野手がフェンスに激突。フェンスを直撃し跳ね返ったボールは、右翼方向へ転がっていく。中堅付近まで来ていた右翼の岸潤一郎外野手が、あわてて追いかけた。
ようやくボールに追いついた岸は、振り向きざまに中継に入った二塁手・外崎修汰内野手へ向かって腕を振る。外崎も古賀悠斗捕手へ正確なノーバウンド送球。古賀は体をかわしながら滑り込む石井にタッチしアウト。寸前でランニングホームランを阻止した。
ここで相手に得点を許していれば、エース・高橋光成投手の3年ぶりの完封が消滅し、チームの勝利自体が危うくなっていた。岸は「本当に必死でした。クッションボールの練習はしていますが、あそこまで変なところへ跳ねたケースの練習はしていない。1秒でも早く内野に返すことだけを考えて、実際にトノさん(外崎)が大きくアピールしてくれていたので、そこへ投げました」と振り返る。
「ライオンズの二遊間は日本一なので、そこが頼りです。外野手は後ろを抜かれたら、ゲンさん(源田壮亮内野手)とトノさんに早く返す。その意識は外野手みんなが持っていると思います」と岸は言う。ゴールデン・グラブ賞を5年連続で受賞している源田と、同2度受賞の外崎の存在が、外野手にも信頼と勇気をもたらしている。
マウンドの高橋光成感激「頼むという思いで見ていました」
一方、岸自身も「投げることに関しては、自信がある方です。ランナーが二塁にいる時は、自分のところへ飛んでこいという気持ちでいます。日頃から相手の胸へしっかりボールを投げるとか、基本の積み重ねが生きたのかもしれませんね」と胸を張った。明徳義塾高時代に投手として甲子園を沸かせた“投げる力”が、ここ一番で垣間見えた。
本塁で待ち構えていた古賀は「最初はホームまで来られてしまうかなと、若干思ったのですが、いい球が返ってきました。タイミング的にいけそうだったので、何が何でもと思ってタッチしました」と会心の笑顔を浮かべた。
このプレーを誰よりも喜んだのは、高橋だっただろう。「本当に野手の方を信じて、『頼む!』という思いで見ていました。ドンピシャで来たので、ありがたかったです」とうなずいた。気合を入れなおして9回を3人で片付け、完封を達成する力になった。
主軸の相次ぐ離脱などで得点力が落ち、松井稼頭央監督は就任1年目から苦しい戦いを強いられている西武だが、オールスター明けには守備力をテコに盛り返してみせる。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)