愛する家族が乳がんに… 巨人・ウォーカーが日曜日にピンクのバンダナを着ける理由
昨年の日曜日は4週連続本塁打を含む9発、ピンクバンダナはグッズ化も…
少しだけ照れながら、巨人・ウォーカー外野手は口を開いた。「愛しているよ、おばあちゃん……」。単独インタビューの最後、海の向こうに住む母方の祖母の顔を思い浮かべ、ストレートな気持ちを伝えた。今、こうして異国の地・日本で戦えているのは家族の存在がある。そして日本のファンにも身につけるピンクのアイテムを通して、伝えたいメッセージがあった。【楢崎豊】
東京ドームで中日戦が行われた5月21日の日曜日。ウォーカーは2回1死一塁の場面で左翼スタンド上段のバルコニー席に突き刺さる特大アーチを放った。ヘルメットの下はピンクのヘアバンドや打撃用手袋など、ピンク色の道具を使用し、力に変えていた。2週連続の本塁打。昨年は日曜日に4週連続弾を含む、9本塁打をマークするなど、とにかく日曜日に強い。
巨人は同14日から21日に社会貢献活動「Ghands」の一環として「大切なひとウィーク~GIANTS withピンクリボン」と題し「第31回日本乳癌学会学術総会」の協力のもと、乳がんやその他のがんを問わず、がんそのものについて正しく理解してもらう啓蒙活動を行っていた。場内演出ではスコアボード表示がピンク色になり、選手たちは特製メッセージボードに「大切なひと」の存在を書き、ビジョンやSNSでも公開された。
メッセージボードにペンを走らせたウォーカーは3人の強い女性たちのことを記した。母(MOM)、そして祖母たち(Grandma、Granny)――。その理由を聞いた。
「母、そして2人のおばあちゃんには、子どもの頃からすごく応援してもらい、勇気をもらっているんだ。気持ちの上でもそうだけど、経済的にも支えてもらった。今、夢を追うことができているのは彼女たちのおかげなんだ」
“強い3人の女性”の一人、母方の祖母・ペインさんは乳がんを患った。その事実を聞いたのは今から7年前、ツインズ傘下の3Aに所属していた2016年シーズンのことだった。独立リーグ時代。ウォーカーは収入がほとんどなかったため「だったらウチにおいで」と2~3年の間、住まいと食事のサポートをしてくれた。優しい笑顔でウォーカーを包み、誰よりも応援してくれていた。
「がんだと知って、手術を受けることになったと親から聞いたときは本当に心配した。大変なことになったと思ったよ。でも、おばあちゃんは強い人。きっと乗り越えて健康になるとずっと信じていた」
闘病生活がどんなものだったかは詳しくは聞いていない。マイナーリーグで移籍、自由契約を繰り返しながらも、ウォーカーは必死に野球と向き合い、打ち込んだ。迎えた2018年2月。レッズのスプリングトレーニングに参加しているときだった。視界に入ってきたのは元気な祖母の姿だった。
「あの時の姿は今もよく覚えているよ。もうおばあちゃんの将来は明るいと思えたし、とても嬉しかった。闘病を乗り越えて、強い姿を見せてくれたんだ」
乳がんを患った祖母の闘病生活、ウォーカーが日本に来ても届けたいこと
その間もウォーカーは祖母への尊敬の念を持ちながらプレーをした。2020年のシーズンではチームメートに声をかけ、ピンクリボン活動をスタート。「日曜日にはピンクのバンダナとかをつけようってなった、乳がんの早期発見の啓発活動、そのサポートをする日にしよう、とね。みんな一緒にやってくれて、拡散することができたんだ」。
ウォーカーはどんな苦難に遭おうとも「おばあちゃんが闘病で味わった苦しみに比べれば、大したことではない」と思えるようになった。強いメンタルを手に入れ、活躍の場を独立リーグに移したあと、その魅力的なパワーで本塁打を量産。優しい心を持つ努力家は巨人のスカウトの目に留まる選手となった。
日本にきても、その気持ちは変わらなかった。ウォーカーは毎週日曜日の本拠地・東京ドームの試合ではピンクのバンダナを装着し、ドレッドヘアをなびかせている。チームメート、ファンの間でも話題になり、グッズにまで発展するほどになった。
「選手として、野球を一生懸命やりながら、日曜日だけでもこういう意味合い(乳がん早期発見の啓蒙活動)でサポートができればいいなと思っているんだ。『なんで毎週日曜日、ピンクなの?』と聞かれたら、こういう説明をすればいい。それにファンの方々にも浸透し始めた。それが自分なりのやり方。認知されて広がっていくことはとてもいいことだと思う」
守備に就く時、打席に入る時、東京ドームのオーロラビジョンにピンク色のバンダナや洋服を着用していたり、グッズを持っているファンの姿が映し出されたりすると「本当に嬉しんだ」と笑う。巨人の選手たちも共感し、身につけてくれていることも幸せに感じている。自身のSNSに寄せられるファンのコメントには「東京ドームにピンクのジャージ着ていく!」というものもあった。
今回の『Ghands』の取り組みは6月末に横浜市内で行われた「第31回日本乳癌学会学術総会」で報告され、医師や看護師ら約5000人が参加。「大切なひとウィーク」の企画を巨人軍に支援協力を求めたがん研有明病院院長補佐の高野利実さんは巨人選手たちが書いたメッセージボードを紹介し、大切な人への思いとがんという病気は誰もがなりうる病気であること、正しく理解することの重要性を伝えた。
ウォーカーは母の日イベントだけでなく、普段から献身的な姿勢を持っている。今回のインタビューでもバンダナを持参し、写真撮影のリクエストにも快く応じてくれた。使用したアイテムはチャリティーオークションに出品し、サポートを続ける。「モチベーションが上がるんだ」。自分が活躍すれば、この思いは伝わっていく。日曜日の試合に強いウォーカーの原動力がわかった気がした。