頭ごなしの指導から脱却 観察と“交換日記”で子どもたちを把握…元燕ドラ1の取り組み

ヤクルトなどでプレーした増渕竜義氏【写真:片倉尚文】
ヤクルトなどでプレーした増渕竜義氏【写真:片倉尚文】

元燕・増渕竜義さんは「上尾ベースボールアカデミー」で塾長を務める

 ヤクルトに2006年高校生ドラフト1巡目で入団し、先発、救援両方で活躍した増渕竜義さんは現在、埼玉・上尾市の野球塾「上尾ベースボールアカデミー」で塾長を務める。指導者として子どもと向き合って今年で7年目。“人間観察”を重視して指導に当たっている。

 2017年から子どもたちの育成に力を注ぐ増渕さん。小中学生合わせて約120人の塾生一人一人に温かな視線を注ぐ。「楽しく野球をやってほしい。基本的にガツガツ教えないようにしています。保護者の方はどんどん教えてほしいと思うかもしれませんが、上手くなりたいと思えば、自分から聞いてくると思います。自分で考えながら技術を磨いてほしいですね」。

 重視するのは“人間観察”。子どもたち一人一人に声を掛け、行動に気を配る。なかなか言葉に出せない子に対しては「野球ノート」を渡す。「交換日記のようなものですね」。まずは子どもが何を感じて考えているのか、把握することに努めている。「子どもたちの考えや感覚はそれぞれ違います。性格を読んでどう話しかけていくか、アプローチするかを考えるようにしています」と語る。

 開講当初はそうではなかった。どちらかと言えば「教えなければ」という思いがあったという。「子どもと同じ目線で接しなければ気持ちも分からない。押し付けてしまうと子どももつまらなく感じてしまいます」。そう気付いて頭ごなしの指導から脱却。現在の“教えない指導”に手応えを感じている。

ヤクルトでは宮本慎也さんとのコミュニケーションに努めた

 ヤクルトで7年、日本ハムで2年間の現役生活を送った。喜びも苦しみも味わった9年間の経験が指導者としての根底にある。例えば、ヤクルト時代はチームの主力だった宮本慎也さんの“そば”にいることを心掛けたという。

 投手と野手。年齢は18違う。それでも遠征のバスで隣に座り、ロッカーも野手寄りの位置にするなど、リーダーシップを備えた大先輩とコミュニケーションを取ることに努めた。「単純に長く現役をやっている人の話を聞こうと思ったんです。宮本さんが選手を注意するところを見て、自分で吸収していった感じです」。

 多くの選手と接することで培った知識を基に、これをアップデートさせながら子どもと向き合う。そうした土壌から有力選手も巣立っている。今春の選抜大会に出場した東北高校のハッブス大起投手も上尾ベースボールアカデミーで学んだ一人だ。

 子どもたちには様々な遊び、スポーツに取り組むことを奨励する。「色々な動きができるようになることが、野球が上手くなる近道。野球はいかにうまく自分の体を操れるかなので。遊びなどを通じて養ってほしいですね」。子どもたちに真摯に向き合い、指導を続けている。

(片倉尚文 / Naofumi Katakura)

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