少年野球の選手を悩ませる“板挟み” 過干渉は成長の妨げに…必要な「放っておく勇気」

キャッチャーコーチとして活動する緑川大陸さん【写真:伊藤賢汰】
キャッチャーコーチとして活動する緑川大陸さん【写真:伊藤賢汰】

選手が悩む“板挟み”…指導者に必要な知識のアップデート

 大人の言動は子どもたちの好奇心や成長の機会を奪う可能性がある。キャッチャーコーチの緑川大陸さんは少年野球の指導者や保護者、審判といった大人のサポートが少年野球には不可欠な一方、子どもたちを悩ませる原因にもなっていると感じている。保護者には「放っておく勇気」を勧めている。

 小学生からプロまで指導している緑川さんは、少年野球の子どもたちから悩みを相談されることもある。特に多いのは、緑川さんのレッスン内容と所属するチームでの指導内容の違い。緑川さんはメジャーリーグをはじめとする最新の知識や技術を積極的に取り入れ、従来の考え方に縛られない指導を心掛けている。ただ、少年野球チームの指導者には、選手の頃に自分が学んだ方法以外を受け入れられない人もいるという。

「例えば、これまでの常識から『捕手は地面に膝をつけて構えるな』と指導する人は少なくありません。ただ、考え方はアップデートされていて、膝をつける構え方にもメリットがあります」

 地面に膝をつけた構え方は、低めの投球に対してミットを下から上に動かしやすい。フレーミングを重視するメジャーリーグでは、低めの捕球がボールと判定されないように膝をつけて構える捕手は増えている。このフレーミングに関しても否定的な指導者が多く、緑川さんは「言葉の意味や内容を正確に理解していないと否定したくなるのだと感じています」と話す。

 上手くなる方法は1つではない。好奇心や向上心を持った選手の姿勢を尊重するチームであれば問題はないが、自分の考え方を曲げられない指導者の下でプレーする選手は緑川さんのレッスンで学んだ内容を否定されるケースがある。その結果、板挟みになる選手に緑川さんは、こう伝えている。

「チームの指導者にどんなことを言われたのかを聞いた上で、選手が怪我をするリスクがある場合を除いて、チームの指導者の考えに合わせた方が良いと話しています。技術的な好みの部分が大きいので、その指導者の方針は否定せず、上手く立ち回れる方法を教えています」

フレーミングを注意…審判に求められる選手への配慮

 フレーミングについては、審判の対応に戸惑う子どもたちもいる。ストライクと判定してもらえるように捕球の工夫をすると、「ミットを動かすな」と怒られるケースがあるという。緑川さんは審判に配慮を求めている。

「審判に注意されるのは、捕球してからミットを動かしているように見えているからです。子どもたちには『フレーミングの技術を磨いていこう』『審判がミットの動きを気にしているのは、捕球の仕方でストライクとボールの判定が変わってくるから』と伝えています。ただ、審判の方々には、上手くなろうと努力している子どもたちの思いを考慮してほしいです」

 審判に怒られた子どもたちは委縮したり、新しいことに挑戦するのをやめようと考えたりするかもしれない。緑川さんは、大人のサポートが少年野球で大きな力になっていると考える一方、口を出し過ぎずに見守る姿勢がベストだと感じている。それは、保護者も同じ。緑川さんは保護者に「子どもを放っておく勇気」を勧めている。

「我が子を一番見ているのは間違いなく親御さんなので些細な変化にも気付くとは思うのですが、すぐ本人へ伝えるのはグッとこらえてほしい場面もあります」

 また、緑川さんは「1球1球、大人が細かく指摘するのはお勧めしません。子どもたちは混乱してしまいます」と続ける。例えば、親子でバッティングセンターに行く場合、子どもが打席に入っている1セット20球の間、保護者は何も言わずに見守る。打席から出たタイミングで、気になったところを1つ、2つ伝える方法を推奨する。大人のサポートが必要になる少年野球では、子どもと大人の距離が近くなる。それだけに、大人の言動は子どもへの影響が大きい。

(間淳 / Jun Aida)

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