近鉄に3連敗からの4連勝 岡崎郁氏が忘れられない一打と“奪われた”MVPの豪華賞品

巨人で活躍した岡崎郁氏【写真:矢口亨】
巨人で活躍した岡崎郁氏【写真:矢口亨】

東京ドームでの第5戦で近鉄エース・阿波野から放った“生涯一”の安打

 1980年代中盤から90年代にかけて巨人で強打の内野手として活躍した岡崎郁氏は本拠地・東京ドームから受けた大歓声を今でも耳に残っている。印象的なシーンはいくつもあるが、1989年近鉄との日本シリーズ第5戦で放った中越えの逆転適時二塁打の“打感”は忘れられない。伝説の原辰徳氏(現・巨人監督)の劇的満塁弾はこの後に生まれた。岡崎氏の一打が勢いを与え、3連敗から4連勝で巨人は日本一をつかんだ。

 巨人ファンの期待を背に打席へ入った岡崎氏はマウンド上の左腕・阿波野秀幸投手(現・巨人1軍投手コーチ)へ鋭い視線を向けていた。心の中では近鉄のエースを打つことだけを考えていた。藤井寺球場での第1戦では肩口から入ってくるスライダーを右翼席へ運んでいる。良いイメージは残っていた。

 ここまで巨人は近鉄に3連敗。本拠地・東京ドームに戻ってから1勝し、第5戦を迎えていた。「僕は1戦目の打順は7番。2戦目は6番。3戦目が5番で3連敗。4戦目から3番に入って、そこから4連勝するんだけど、流れが変わった。そんなシリーズだった」。1点ビハインドの5回2死一、二塁。シュート気味のボールに力負けせずに打ち返した。中堅が少し浅めに守っていたため、打球はワンバウンドで中堅フェンスに到達。その間に二人の走者が帰り、逆転に成功した。生涯の打席の中でも忘れられない一打となっている。

巨人で活躍した岡崎郁氏【写真:矢口亨】
巨人で活躍した岡崎郁氏【写真:矢口亨】

 3勝で逆王手をかけることになった第6戦でも2本目の本塁打を放つなどシリーズを通じて好調だった岡崎氏はMVP候補だった。自身は「MVPとか本当に考えていなくて、チームが勝って日本一になることだけを考えていましたね」。しかし、周りは岡崎氏が取るものと思っていた。7戦目を戦う前に駒田徳広氏(現・巨人3軍監督)から「MVPを取ったら賞品のハワイの旅行券だけくださいってお願いされたんだよね。ファーストクラスの往復券。結婚するからっていうから、あげる約束をしたんだけど……」。

 迎えた第7戦。それまで2本塁打、6打点と良い状態を維持していた岡崎氏だったが、無安打に終わり、打率は.250に。駒田氏は先制本塁打を放つなどの活躍を見せ、終わってみればシリーズで23打数12安打、6打点。打率はなんと.522。その結果、MVPはその駒田氏のもとに。「最後に一本、僕が打っておけば変わったんでしょうけど……」と苦笑い。最終的に1つ年下の後輩にMVPを譲る形となったが、良き思い出として今も残っている。栄光やファンからの喝采……賞品以上に大きなものをここでもらった。東京ドームに来ると、思い出話は尽きない。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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