まさかの落球連発で試合中に涙 失意の“一人飯”…「救ってくれた」名将の一言

元オリックス・葛城育郎氏【写真:山口真司】
元オリックス・葛城育郎氏【写真:山口真司】

葛城育郎氏は1試合に飛球を2度落球…仰木監督の言葉で気が楽になったという

 オリックス、阪神で活躍した葛城育郎氏(株式会社葛城代表取締役、報徳学園コーチ)にとってプロ入り当時の監督・仰木彬氏は忘れられない人だ。1999年のドラフト2位(逆指名)でオリックス入りしたが、獲得を猛プッシュしてくれたのが仰木氏だった。2000年、2001年の2シーズンだけの“関係”だったが、何かと気にかけてくれたという。仰木マジックと言われた元祖・マジシャン指揮官との思い出。鉄板焼き店と監督室での出来事は特に印象深いそうだ。

 イチロー氏がマリナーズに移籍した2001年シーズン、プロ2年目の葛城氏は130試合に出場し、規定打席に到達し、打率.268、14本塁打、53打点の成績を残した。結果的にこれがキャリアハイだったが、この年に嫌でも覚えているのは守備での失敗だという。「近鉄戦でライトを守っていて、1試合に2度も落球したんですよ。1発目は礒部(公一)さんのライン際の球をポロっと落として、2発目は吉岡(雄二)さんの高く上がったフライを普通に構えて落として……」。

 自身も原因が分からなかったという。「人生で落球なんてほぼほぼなかったんです。悔しくて試合中に泣いちゃいました。2つ目をやった時に。自分が不甲斐なくて……。なんでこんなことをやっているんだろうって」。ショックは大きかった。「もう一人暮らししていたんですが、すぐ帰っても嫌やなと思って、鉄板焼き店にひとりでご飯を食べに行ったんです。そしたら、そこに仰木さんが来られたんですよ」。

 仰木監督は葛城氏を見つけるや、すぐに近づいてきた。「監督に僕は“カツ”って呼ばれていたんですけど、『カツ! おお、落球王』ってめちゃめちゃ軽い感じで声をかけられたんです」。これで気持ちが楽になったという。「トップの方がこんなふうに言ってくれて、本当はしゃべりたくない、顔も見たくない選手だったと思うんですよ。それを普通に。次の日は無茶苦茶練習しましたけど、その時にあった仰木さんの一言が自分を救ってくれたというのは覚えています」と葛城氏は話した。

オリックス時代の背番号は3…仰木監督が進言「1桁をやれ」

 監督室での出来事は、その年の後半戦になってからだった。「仰木さんに呼ばれて『カツ! 勝負しようか』と言われたんです。『何ですか』って聞いたら『後半ホームランを10本打ったら、100万あげるわ、打てんかったら、お前、10万出せよ』って。後半、もっと打てよという意味。発奮材料というかそういうのをやってくれた方でした」。葛城氏は後半10本をクリアできなかったが、10万円を仰木監督は受け取らなかった。これも仰木流の操縦術だった。

「仰木さんにうまく使ってもらったと思います」。振り返れば、プロに入る時も仰木監督が獲得を進言してくれたことが大きかった。オリックスでは背番号3をつけた葛城氏だが「もともとは24番だったんです。スカウトの人に24と26のどっちがいいかと聞かれて、24って高橋由伸さんとか左バッターのイメージがあったので、24でお願いしますって、そしたら後になって仰木さんが1桁をやれ、3番が空いているやろって言ってくれて3番をもらったんですよ」。

 仰木監督は2001年シーズン限りで退任した。その後、2005年に復帰したが、葛城氏は阪神へ移籍していたため、監督と選手の関係は2000年と2001年の2シーズンだけだった。しかしながら、思い出は尽きない。葛城氏はとても感謝している。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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