周囲から「え、行かんの?」 3連覇の夜に“直帰”…バスに乗り込んだ育成出身新人の決意
オリックス・茶野篤政はビール掛けに参加しなかった
3連覇に貢献した育成出身ルーキーは、歓喜の美酒を“浴びない”選択をした。オリックスの茶野篤政外野手は、リーグ優勝を決めた9月20日のロッテ戦の夜、思い切った決断を下してチームバスに乗り込んだ。
20歳未満の選手らと同じようにビール掛けには参加せず、京セラドームから球団寮に直行。祝杯を受け止めるゴーグルも、シャワー後の着替えも必要なかった。「もちろん、参加したい思いはありましたよ。でも(1軍)ベンチに入れていなかったので、正直に『ビール掛けに行きたくない』という気持ちがあったんです。悔しいなという感情の方が強かったです」。胴上げを終えて場内を1周すると、育成ドラフト出身の24歳は決断を下し、帰路に就いた。
悔しさを胸にしまい込んだ。2022年育成ドラフト4位で入団し、今季開幕直前に支配下選手登録を勝ち取った。3月31日の西武との開幕戦(ベルーナドーム)に「8番・右翼」でスタメン出場。育成ドラフト入団1年目の選手が開幕スタメンに名を連ねるのは、史上初の快挙だった。
「開幕戦は足がずっと震えていました。1打席目に立つまで(足が)ブルブルでした。(打席では)初球いこ、初球いこ、初球いこって、自分に言い聞かせていました」
ビール掛けに不参加「次の日、ファームの試合があったので」
新人の奮闘が、チームを春先から勢いに乗せていた。4月は月間打率.275の成績を残して牽引。一時は外野の定位置を掴みかけた。今季ここまで91試合に出場し「育成で入団して、こんなに1軍の試合に使ってもらえると思っていなかった。すごく良い経験をさせてもらいました。後半に(状態が)落ちたので、まだまだ課題だなと。もっとレベルアップしていきたいです」。真っすぐな視線で言葉を紡いだ。
ただ、3連覇を決めた日は、心が晴れなかった。「僕は(1軍に)登録されていなかった。(ビール掛けは)みんなにも『え、行かんの? 』と言ってもらった。でも、やっぱり僕の中では優勝した実感がなかったんです」。
ベンチ入りしていれば「全然、参加したかったです。ただ、次の日、ファームの試合が(鳴尾浜で)あったので、自分のやるべきことに集中しないとなと思いました」と24歳は鍛錬を積む。
祝杯は日本一まで上げないと決めた。バスの座席から見た夜景が、深く胸に突き刺さった。唇を噛み締めた記憶を忘れず、バットを振り込む。
(真柴健 / Ken Mashiba)