「初球からフルスイング」封じて中学軟式日本一 チャンス拡大する“見極め”戦術

中学軟式日本一に輝いた「東海大静岡翔洋中」【写真:間淳】
中学軟式日本一に輝いた「東海大静岡翔洋中」【写真:間淳】

東海大静岡翔洋中は今夏の「全中」で29年ぶりに優勝

 初球攻撃や好球必打が勝利につながるとは限らない。今年8月に行われた全国中学校体育大会の軟式野球で、29年ぶりに優勝を果たした静岡・東海大静岡翔洋中は、カウントをつくる意識を重視している。投手に1球でも多く投げさせることで、得点のチャンスが広がる考え方が根底にある。

 野球界は今、初球からフルスイングする打撃が主流になっている。今夏に全国制覇を成し遂げた東海大静岡翔洋中も甘い球を逃さない意識を持っている。ただ、それ以上にカウントをつくる打撃に重点を置いている。チームを率いる寺崎裕紀監督が語る。

「最近の野球は初球をフルスイングできるチームが評価される傾向にあります。安打にできる可能性が高い投球を打ちにいく重要性は理解していますが、私は投球を見極めることでチャンスが広がると感じています」

 打撃は打率3割で好打者と言われる。つまり、成功よりも失敗する確率が高い。例えば無死一塁で、打者が初球を打ってチャンスを広げられる確率は良くても3割の計算。併殺打になる可能性もある。それよりも、相手投手に1球でも多くの球を投げさせる方が、走者を先の塁に進める確率は高くなる。寺崎監督は、球数が多くなるほどバッテリーミスや牽制悪送球、盗塁などで進塁できるチャンスが増えると考えている。

「打席で1球でも多く投球を見た方が、打てる材料を見つけられます。フルカウントから四球を避けるために投げる1球は甘くなるので、安打の確率も上がります。もちろん、相手投手のストライク率が高い時は早いカウントから狙っていきますが、時と場合によります。その見極めをするのが監督の仕事だと考えています」

指導者の“差”で敗戦…カウントをつくる大切さを痛感

 カウントをつくる大切さを選手に説くのは、指揮官の苦い敗戦がある。1度目に監督に就任した2014年、初めての公式戦となった新人戦の県中部大会1回戦で敗退した。このチームは後に全国大会で3位に入るほど力のある学年だったが、寺崎監督には指導者の“差”を痛感する一戦となった。この試合、東海大静岡翔洋中は投手2人で15四球を与えた。7イニングで要した球数は計250球に達したという。

「相手チームは私たちの投手の制球が良くないと判断してカウントをつくり、追い込まれたらポイントを近くして粘る緻密な戦術を展開してきました。私たちのチームは初球をスイングして凡退する打席が目立ちました。その試合に大差で敗れて全国大会出場を逃してしまい、申し訳なく思っています」

 東海大静岡翔洋中は、翌年の新人戦でも同じ相手に同じように大敗した。寺崎監督は選手や保護者が望む全国大会出場、さらには日本一を成し遂げるには、好球必打だけでは難しいという結論に至った。練習では全国レベルの投手を攻略する打撃の確実性や対応力を磨きながら、カウントをつくる意識をチームで徹底している。

 今夏の全国大会でも、簡単にはアウトにならない攻撃でチャンスを拡大して得点を重ねた。「限られた時間で打撃練習に時間を割いて、攻撃に関しては何でもできるようにしています」と寺崎監督。チャンスを広げる戦術が得点力や勝敗を左右する。

(間淳 / Jun Aida)

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