「無理やり詰め込むだけ」の食事はNG 甲子園常連の名門校が見直した“ごはん基準”
横浜高で5度全国制覇…名将・渡辺元智元監督を父に持つ元美さんの経験談
新チームがスタートし、さらなるレベルアップを目指す選手が多い。今回は元横浜高野球部の寮母で約20年、高校球児の食事をサポートした管理栄養士の渡辺元美さんに体づくりのベースとなる「食トレ」について話を聞いた。渡辺さんは母としても息子・佳明内野手(楽天)のプロ入りを実現させたが、小・中・高と息子の成長を見守る中で「とにかく食べろ」と言う「昔からの常識」から、個々の成長期や生活スタイルに合わせた「食べ方」が重要だと実感している。
「横浜高時代、ごはんをたくさん食べられるおかずは用意していたのに、選手の身体がなかなか大きくならなかった。甲子園に行くたびに他のチームの選手と体格差を感じたこともありました。その原因は何か? と考えました」。渡辺さんはそれまで把握していなかった練習内容を当時の男子マネジャーに聞き、その強度からエネルギーを算出してみた。
すると、横浜高の練習には最低でも1日5000~6000キロカロリーのエネルギー量が必要だということが分かった。「明らかに糖質の量が足りていなかった。ごはんの量を増やすだけでなく、食事を摂るタイミングも変えていく必要がありました。1度にたくさん食べるのではなく、全体練習が終わるタイミングで補食を摂る時間を作って欲しいと父にお願いしました」。
渡辺さんの父は5度の全国制覇を達成した名将・渡辺元智元監督(2015年に勇退)。助言しやすい環境だったことも幸いした。最初はバナナやチーズ、カステラ、アンパン、オレンジジュース、ゼリーなどからスタートし、徐々におにぎりを作って補食の習慣を作っていった。1日に必要なエネルギー量を「分食(=時間を分けて食べる補食)」と言う形で実践すると、それまで得られなかった成果が出てきた。
「楽天の藤平尚真投手は高2の冬から1日3食の食事の他に、補食としておにぎりを1日6個食べる『分食スタイル』をコツコツと続けて、半年で8キロの増量に成功しました」
「エネルギーを無理やりつめこむだけの食事」を根底から見直し
2018年に寮母を引退し、大学生アスリート寮の食事サポートを経て、関東圏内の運動部などを対象に、栄養指導や運動の前後に摂取する補食(おにぎり)の配達をする事業「お結び」を展開。現場に足を運んで最新情報を取り入れ、日々アップデートする食トレを追求している。
覚悟をもって横浜高に入学した選手の努力や、支える家族の思いに触れると、自分も覚悟をもって食事を作らなければいけないと当時を振り返る。ジュニア野球界で常識化されてきた「2合メシ」も根底から見直し、「エネルギーを無理やり詰め込むだけの食事」ではなく「おいしそう」「食事が楽しみ」と思ってもらえるメニュー作りにまい進している。
糖質の摂り方も、麺類を取り入れるなど食べやすさにもこだわった。20年以上高校球児の生活に寄り添い、趣味嗜好を知り尽くした渡辺さん。プロテインやサプリメントに頼りすぎない、家庭でも実践できる栄養指導が好評だ。
今ではインスタグラムなどで広く周知されている「のっけ型」のお弁当。渡辺さんがごはんの上におかずを乗せるどんぶり型のスタイルを思いついたのは15年も前。選手たちに好評で「量を食べられるようになった」と喜ぶ声が増えた。のっけ弁当は、どんなお弁当になるのか……。後編では、渡辺さんが家庭でも簡単に作れる「ベジそぼろ弁当」を作ってもらった。(つづく)
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(樫本ゆき / Yuki Kashimoto)
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