2冠王を上回った西武打者 山本由伸は驚異的な指標…セイバー目線で選ぶ9・10月のパMVP
ロッテが大型連敗を喫した一方、着実に貯金を重ねた楽天
9月20日にオリックスが3連覇を果たして以降、10月10日の最終戦まで順位が確定しなかった9月以降のパ・リーグ。そんなパ・リーグの「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。
選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録を用いている。ただし、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標として扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。
まずは、9月以降のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
○オリックス:17勝11敗
得点率3.18、打率.239、OPS .653、本塁打17
失点率3.06、先発防御率2.03、QS率57.1%、救援防御率3.68
○楽天:15勝12敗
得点率3.82、打率.251、OPS.675、本塁打13
失点率3.87、先発防御率3.87、QS率46.4%、救援防御率2.73
○西武:15勝12敗1分
得点率3.78、打率.237、OPS.654、本塁打18
失点率2.85、先発防御率2.58、QS率63.0%、救援防御率2.50
○ソフトバンク:15勝13敗1分
得点率3.86、打率.249、OPS.685、本塁打18
失点率3.48、先発防御率3.88、QS率27.6%、救援防御率2.26
○ロッテ:12勝18敗
得点率3.30、打率.229、OPS.644、本塁打21
失点率3.77、先発防御率3.76、QS率40.0%、救援防御率3.11
○日本ハム:8勝16敗
得点率2.50、打率.203、OPS.568、本塁打13
失点率3.77、先発防御率3.76、QS率40.0%、救援防御率3.11
パ・リーグの覇者・オリックスの安定した戦いぶりが目立つなか、注目したいのはクライマックスシリーズ(CS)進出を懸けて最終戦を戦ったロッテと楽天の成績。ロッテは9月上旬に4連敗、下旬に7連敗を喫し大きく負け越した一方で、楽天は15勝12敗と貯金をつくったことで、最後の追い上げへとつながった。
また、7月と8月に負け越し順位を下げたソフトバンクは、リーグトップの月間得点率3.86を記録するなど勝ち越したことで、2年連続でAクラスを死守した。
全5試合でハイクオリティスタートを達成したオリックス・山本由伸
そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による9月・10月の月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りとなった。
○山本由伸(オリックス)
RSAA:8.23、登板5、イニング37回、防御率0.49、WHIP0.73、奪三振率9.97、QS率100%、HQS率100%
○則本昂大(楽天)
RSAA:5.38、登板5、イニング33回、防御率1.91、WHIP0.85、奪三振率8.73、QS率100%、HQS率60%
○西野勇士(ロッテ)
RSAA:4.76、登板4、イニング28回、防御率2.57、WHIP1.07、奪三振率8.04、QS率100%、HQS率50%
○青山美夏人(西武)
RSAA:4.02、登板7、イニング9回2/3、防御率0.00、WHIP0.31、奪三振率11.17
○伊藤大海(日本ハム)
RSAA:3.49、登板4、イニング26回2/3、防御率4.05、WHIP1.31、奪三振率8.78、QS率50%、HQS率50%
○有原航平(ソフトバンク)
RSAA:3.36、登板5、イニング35回2/3、防御率1.01、WHIP0.81、奪三振率7.32、QS率80%、HQS率80%
3年連続で投手4冠に輝いた山本由伸が、9月以降の全試合でHQS(ハイクオリティスタート)を達成し、有終の美を飾った。WBC優勝とオリックスの3年連続優勝に大きく貢献し、日本だけでなく、メジャー界にもその名を轟かせることとなった山本由伸を9月以降のパ・リーグ月間MVP投手部門に推薦する。
OPS・長打率・出塁率で月間トップに立った西武の佐藤龍世
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す指標「wRAA」を用いる。パ・リーグの打者の「wRAA」ランキングは以下の通り。
○佐藤龍世(西武)
wRAA:11.61、112打席、OPS.914、打率.289、本塁打2
○近藤健介(ソフトバンク)
wRAA:10.03、123打席、OPS.905、打率.284、本塁打5
○森友哉(オリックス)
wRAA:7.79、119打席、OPS.883、打率.277、本塁打5
○岡大海(ロッテ)
wRAA:7.36、83打席、OPS.955、打率.329、本塁打3
○浅村栄斗(楽天)
wRAA:6.09、119打席、OPS.787、打率.270、本塁打3
○デビッド・マキノン(西武)
wRAA:5.27、54打席、OPS.949、打率.340、本塁打3
○万波中正(日本ハム)
wRAA:5.07、106打席、OPS.787、打率.228、本塁打5
○小深田大翔(楽天)
wRAA:5.03、126打席、OPS.719、打率.287、本塁打0
9月以降のパ・リーグで最もwRAAが高かったのは佐藤龍世だ。月間成績で見ると、本塁打、打点、出塁率の3冠を獲得した近藤健介の成績に匹敵する活躍を見せたことになる。本塁打数では3本の開きがあるが、佐藤は3塁打を2本打っており、長打率にそれほど大きな差はない。
また近藤の四球数が24に対し、佐藤の四球数は27で、月間出塁率はリーグ1位を記録している。チームは最終的に5位に終わったものの、9月以降の勝ち越しに打撃で大きく貢献した佐藤龍世を9月以降の月間MVPパ・リーグ打者部門に推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。