今年のオリに「もう正尚はいない」 思い返す1年前の伝説…間近で見た主砲の“意志”
オリックス・小田裕也が思い返す、吉田正尚の劇的サヨナラ弾
京セラドームの右翼5階席を見上げる度に、鮮やかな弾道を思い出す。ヤクルトと戦った昨年の日本シリーズ第5戦、オリックス・吉田正尚外野手(現レッドソックス)がサヨナラ本塁打を放った。同点に追いついた直後の9回2死一塁、マクガフから放った劇的2ラン。熱狂の中、グラウンド内で唯一アーチを見届けた一塁走者の小田裕也外野手は「打つ前に(スタンドへ)行ったと思った」と振り返った。
2球目のフォークを捉えた吉田は、打った瞬間スタンドインを“確信”していた。だが、それよりも“一瞬”速く察知していたのが、サヨナラのランナーとして一塁で集中力を高めていた小田だった。「モーションに入って、投げる瞬間に『あ、入った』という感覚でした。(インパクトの前に)確信しましたね」。打球の行方を目で追わなくても、勝利を知った。
メジャー移籍した吉田にとっては、オリックスでの本拠地最終打席だった。ゆっくりと生還した小田は「自分の中でもあったんじゃないかな。京セラドームでオリックスとして最後の打席だってことがね」と後輩の胸中を思いやった。
伝説の本塁打から1年…「今年のチームに、もう正尚はいない」
伝説の本塁打から、1年が経った。今季もオリックスはリーグ優勝を果たし、3連覇を達成。28日からは阪神との日本シリーズを戦う。昨季は第7戦までもつれた熱戦を制し、悲願の日本一に輝いた。渋みを増した33歳は、目を細めて今年のチームについて語った。
「(今年も)僅差になると思います。今年のチームに、もう正尚はいない。友哉(森)はいますけどね。でも、1人に頼るんじゃなくて、全員で役割意識を持って勝つことができればなと思います。誰かに頼ることなく全員で力を合わせれば大きなパワーになる。(活躍の)場面が巡ってきた選手は、みんな良い働きができるように備えていると思う」
王者として臨む短期決戦。故障者も目立ち、暗雲が立ち込めているかと思いきや、胸を張って言った。「そうかもしれないですけど、みんなで越えていかないといけない。準備の面では、今回のCSメンバーに入っていない選手だって、きっちり練習している。山足も佐野(皓)も、遼人(渡部)も。(宮崎)フェニックスに行っているメンバーも、全員にチャンスがあると思う」。代走や守備固めでの途中出場で活躍が目立つ“切り札”にも、スタメン起用の可能性がある。
昨年の日本シリーズを思い返すと、ニコリと微笑んだ。「宮崎の試合で勢いづいて来るメンバーもいるわけじゃん? 昨年の椋(太田)みたいにね」。昨季第7戦で初球先頭打者本塁打を放った太田のように、フェニックス・リーグで鍛錬を積んで決戦に挑むナインもいるはず。
「全員で勝ちに進んでいきたい。自分たちができることを1つずつですね」。若手の躍動が目立つフレッシュなチームを支える、必要不可欠な“兄貴分”がいる。
(真柴健 / Ken Mashiba)