社会人クビも…1年でドラフト最速159キロ 「プロで見返す」無名から這い上がった剛腕
四国IL徳島の椎葉剛、ドラフト候補の中で最速タイの159キロをマークした
「3年間よくならず、会社をクビになってしまったんです」。ちょうど1年前には野球人生の瀬戸際に立たされていた男が、今年のドラフト候補の中でも最速タイとなる159キロをマークして大きな注目を集めている。誰しもが目を疑うような急成長を遂げたのは、四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスに所属する椎葉剛投手だ。「この悔しい気持ち、プロに行って見返してやろう」と、がむしゃらに走り続けてきた。
大阪府出身で、島原中央高(長崎)では主に捕手を務めるなど無名の存在。「チームの関係上、キャッチャーをしていたんです。でも自分の中では、どうしてもピッチャーをしたいという思いがあって」と、投手として社会人野球のミキハウスに飛び込んだ。しかし、投手の経験がほぼない中で、一発勝負のトーナメント戦の多い社会人野球は甘くなかった。3年間で公式戦登板は1試合に終わった。
「社会人の時にベテランの方に、持ってるものはいいよ、素材はいいしポテンシャルはあるよってずっと言われてきたんですけど、どうしたらよくなるかっていうのが、全然わからなくて……。コーチに聞いても、投げ込みが足りないとか、走るのが足りないって言われて……。でも、3年間よくならず、自分から会社を辞めたんじゃなくて、クビになってしまったんですよ」
それでも諦めきれず、すぐに四国IL・徳島の門を叩いた。「クビになってしまったことで、やっぱり野球は無理かなと思ったんですけど、独立に行って、プロに行って、この悔しい気持ちっていうんですか、見返してやろうと思う気持ちがあったんで、野球を続けようと思いました」。10年連続でドラフト指名選手を輩出している徳島で、自身の可能性にかけることにした。
「自分の159キロは、まだ世の中に認められてない感じがあるんです」
ウエートトレーニングで徹底的に体を鍛え上げ、岡本哲司監督とともに投球フォームを試行錯誤。手応えをつかむと、面白いように球速が上がっていった。コンスタントに150キロ以上を記録するようになり、9月29日に行われた独立リーググランドチャンピオンシップの富山戦(松山)で、159キロをマーク。社会人時代の最速148キロから11キロも球速がアップした。
原動力は負けん気の強さだ。「同じプロに入る前の大学4年生には、球速の速さでは負けたくなくて。1番で行きたいっていう思いもあったんですけど、自分の159キロは、まだ世の中に認められてない感じがあるんです」。松山の球速表示は、巷では速めに計測されると言われており、実際に1位指名の候補にも挙がる常廣羽也斗投手(青学大)もこの球場で最速155キロをマークした。
「NPBの世界に行って、159キロ以上を出して、グランドチャンピオンシップの際にスタジアムで表示された159キロは本物だった! と野球関係者がざわついてほしいなと思っています。しっかりトレーニングもしていますので、出せる自信もあります。また159キロを出して、あそこの球場は合ってたんだよっていうのを、世の中に認めさせたいなって」
驚異的な奪三振率11.77は、四国アイランドリーグplusで最高の数字だが、目標はもっと高いところを見ている。自信のあるスライダーとカーブの他に、現在はフォークの練習もしており、まだまだ伸びしろは計り知れない。
もう1つの持ち味は、子どもの頃に憧れた元阪神の藤川球児投手のような浮き上がる軌道だ。ミキハウス時代に、球速は遅くても打者を押し込んでいく社会人野球の歴戦の投手たちを見て、「ベース板に来るときの球の強さ」を意識し始めたという。苦しかった3年間があったからこそ今の自分がある。プロでも159キロを……有言実行のための運命のドラフト会議は、26日に迫っている。