体が小さくても成績安定 力頼みは怪我の元…強豪チームが培う投手の“高い技術”

クイックの練習をする多賀少年野球クラブの選手たち【写真:間淳】
クイックの練習をする多賀少年野球クラブの選手たち【写真:間淳】

滋賀・多賀少年野球クラブがBBMCの講師を招いて投球指導

 投手の能力は球速や制球力だけではない。日本一3度を誇る滋賀・多賀少年野球クラブの投手陣は、けん制やクイック、フィールディングのうまさが光る。クイックはモーションを素早くしながらも球威を落とさないよう、椅子を使ったトレーニングも取り入れている。

 多賀少年野球クラブは、毎年のように全国大会に出場している。ただ、選手の体格は突出していない。小柄な選手が目立つ学年もある。それでも、安定した成績を残せる理由には、どの選手も野球を熟知し、力に頼らない技術の高さがあるからだ。

 チームは毎年夏に開催される全国大会の滋賀県予選の時期まで、基本的に選手のポジションを固定しない。全ての選手が投手の練習をする。特定の選手に起用が偏れば怪我のリスクが高まる。さらに、投手を含めた複数のポジションを経験することで、そのポジションを本職とするチームメートの気持ちを理解したり、アドバイスしたりする効果もあるという。

 チームを率いる辻正人監督は、無死一塁の攻撃と守備を重視して練習する時がある。無死一塁の攻守はチーム力の差として表れやすい。攻撃の際、走者を二塁に進めて無死二塁とすれば、進塁打や犠打でアウトと引き換えに走者を1つずつ前に進めて得点できる。逆に、守備では無死二塁をつくられないようにする。その時に大事になるのが、けん制とクイック。多賀少年野球クラブにはクイックの質を高めるトレーニングもある。

多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:間淳】
多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:間淳】

クイックは「セットの構えから軸足に体重を乗せるまでの動きを速くする」

 その一環として10月15日には、野球の動作改善やスポーツ医学を専門とするベースボールメディカルセンター(BBMC)の講師を招き、選手たちはクイックのポイントを学んだ。BBMCは、小さな力で大きなエネルギーを生み出すために、腱を使った投げ方を推奨している。講師を務めた紺野大介さんは「クイックは早くボールを放せばよいわけではありません。体を正しく使えば、ノーワインドアップの時と同じ球威やコントロールで投球できます」と選手たちに伝えた。

 この日は特に、最も力が入ると言われるパワーポジションのつくり方と、踏み出す足を真っすぐ前に出すストレートステップに、指導の重点を置いたと相澤代表は説明する。パワーポジションをつくった状態でセットポジションに入れるよう、選手には椅子に浅く座ってから立ち上がるように指導した。

 ストレートステップのポイントには、ホームベースと軸足のかかとを結んだライン上にステップして投げることを挙げた。狙った方向へ足を真っすぐに踏み出せば、腕も真っすぐ振れるため肩や肘への負担が小さく、コントロールも安定するという。講師を務めた紺野さんは選手に、こう説明した。

「軸足のつま先側にステップするのはインステップと言われていて、投げたい方向に対して体が内側に入ってしまうので、真っすぐ投げようとすると必要以上に体を回転させなければいけません。腕を振る時に頭から離れたり、肘が下がったりして怪我のリスクが高くなります。逆に軸足のかかとより外側にステップすると体が開くので、力が逃げてしまいます」

 選手たちは椅子から立ち上がった後、体育館に引かれた直線を活用して足を真っすぐステップする意識を徹底した。そして、紺野さんから「クイックは、セットポジションに入ってから軸足に体重を乗せるまでの動きを速くするように」とアドバイスを受けていた。打者を圧倒する球速だけが相手を抑える方法ではない。失点を防ぐ方法が様々あるところに、投手の面白さがある。

(間淳 / Jun Aida)

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