聖地で見たもう一つの「下剋上球児」 劣等感まみれの10年…救った鈴木亮平さんの言葉
TBS日曜劇場「下剋上球児」を支えるインストラクター・占部大輔さん
全国の高校野球OB・OGが、地区大会を勝ち上がり憧れの聖地・甲子園でプレーする「マスターズ甲子園2023」が11日から2日間行われた。大会1日目の第4試合では、広陵OB(広島)が5-2で福島県選抜に逆転勝利。広陵の先発マウンドに立った占部大輔投手は、TBS日曜劇場「下剋上球児」に出演しているキャストへ野球の動作指導を行っているインストラクターを務めている。ドラマで描かれている架空の県立弱小校・越山より一足先に地方大会を勝ち抜き、甲子園へ辿り着いた。
占部さんは、中学3年生のときに祖父が残した「広陵へ行って甲子園で投げなさい」の遺言を守るために、誘われていた私立2校に断りを入れ、広陵の門を叩いた。1学年上には佐野恵太外野手(DeNA)が在籍。立派な練習設備を構え、部員がたくさんいる名門で3年間を過ごした。
3年になる2013年の春には甲子園に出場も、熾烈なレギュラー争いに敗れ、自身はベンチ入りを逃してしまった。それ以来、自分を卑下することが多くなった。
「僕は、祖父が最後に絞り出した遺言と、親との『甲子園で投げている姿を見せる』という約束を、高校ではどちらも叶えられなかったんです。ベンチ入りを逃したことが劣等感になって、心の中にあり続けていました」と当時の思いを語った。
しかし、主力選手じゃなかったからこそ、腐りかけたり、不安になったり、葛藤するドラマの球児たちの心情に「共感できるところがたくさんあります」と頷いた。
ドラマの第1話で「俺なんか万年控えやし」と入部をためらう1年生、兵頭功海さん演じる根室知廣に自らの姿を重ねた。9人目の部員確保に奔走していた主人公の高校教師・鈴木亮平さん演じる南雲脩司が「じゃあ、初めてのレギュラーだな。おめでとう」と微笑み、「俺なんかとか言うなよ」と語りかけるシーンには胸を打たれた。
鈴木亮平さんの一言で改心、10年越しの夢舞台で1イニング無失点の好投
ドラマの撮影は長期間にわたる。クランクアップまで支える責任感を抱き、仕事と向き合っていが、確固たる自信がなかった。そんな時に主演の鈴木亮平さんから「ここまでの撮影が上手くいっているのは占部さんのおかげですよ」と声をかけられた。すごく嬉しかった。だが、滲みついたコンプレックスから「僕なんかでよければ、いくらでも」と、へりくだった態度をとってしまった。
「僕なんかとか言うなよ」
劇中と同じストレートな一言が返ってきて、「救われたんです」と振り返る。少しだけ背中を押された気がした。初めて聖地のマウンドに立ったマスターズ甲子園の一戦は、1イニングを投げて無失点。鈴木さんの一言と、ドラマ内の球児のチャレンジする姿から刺激を受けられたからこそ、10年の時を経て家族との約束を果たせたのだろう。
「正直、今日までずっとコンプレックスの塊でした。でも、越山のみんなにも、他の人にも、いろんなストーリーがあって、みんなが主人公。どういう形で、どんな時に夢が叶うのかは、やってみないと分からない事です。少し形は違えど、この聖地に立たせていただいたことは、僕の野球人としての人生の大きなターニングポイントになりました」と晴れやかに語った。
「(キャストの)みんなにも伝えられる経験ができました」。次は甲子園初出場を目指している越山の球児たちが、聖地の切符を掴む番だ。
○TBS系日曜劇場「下剋上球児」
高校野球を通して地域社会や教育、家族が抱えるさまざまな問題を描くヒューマンドラマ。三重県の公立高校・白山高校が2018年に甲子園に初出場するまでの軌跡を描いた作家・菊地高弘さんのノンフィクション本が原案。主人公の高校教師・南雲脩司役に鈴木亮平さん、野球部部長の山住香南子役に黒木華さんなど、豪華キャストでも話題となっている。
(喜岡桜 / Sakura Kioka)