楽天新人右腕が操る“絶滅危機の魔球” 空振り量産…リーグ屈指の「.080」
楽天・渡辺翔太は51試合で防御率2.40、チームトップの25ホールド
今季のルーキーの中で特に印象的な活躍を見せたのが、楽天の右腕・渡辺翔太投手だ。九州産業大からドラフト3位で入団した23歳は、6月3日に1軍初昇格。デビューから8試合連続無失点と好投すると、7月以降はセットアッパーの役割を担った。51試合で防御率2.40、チームトップの25ホールドなどの好成績をマークし、新人王候補の中でオリックス・山下舜平大投手に次ぐ票を獲得した。
渡辺の大きな特徴が、パームを持ち球にしていることだ。手のひら(パーム)で包むような独特の握りから投じられる変化球。パ・リーグでは帆足和幸氏(元西武、ソフトバンク)が代表的な使い手として活躍していたが、ここ10年で実際に投じた投手は6人のみ。今季渡辺がパームを投じたこと自体がリーグ6年ぶりの出来事だったが、その割合も27.4%と持ち球の中ではストレートに次いで高く、球界でも希少なパームボールの使い手といえるだろう。なお今季は西武の佐藤隼輔投手も1球だけパームを投じている。
このパームとはどんな性質の変化球なのだろうか。まず前提として、フォークやチェンジアップなどと同様、落ちるボールに分類される。そして渡辺はアベレージで150キロ近いストレートを投じるパワーピッチャーだが、それに対してパームの平均球速は128.9キロで、ストレートと比較すると20キロ以上遅いボールだ。そのためフォークのようにストレートに近いスピードで落ちていくというよりも、チェンジアップのように打者のタイミングを外すボールだといえる。
一方で打者にスイングを仕掛けられた際の結果を見てみると、一般的なチェンジアップとは異なる性質が見てとれる。スイング奪空振り率は40.2%と高い確率で空振りを誘っており、またバットに当てられたとしてもゴロ割合は71.0%とその多くが比較的安全なゴロになる。どちらの指標もチェンジアップよりもフォークの方が高い割合になる傾向にあるが、渡辺のパームはフォークのリーグ平均を上回る数字だ。また自身もスプリットを持ち球にしているが、決め球としてはパームを選択するケースが多く見られた。
他の落ちる系のボールとはひと味違う特徴を持った渡辺のパームボール。50打数4安打、被打率.080という結果は、今季パ・リーグで投じられた全球種の中でも屈指の数字だった。絶滅危惧種ともいえるこの“魔球”の存在が、若き右腕の飛躍を支えたことは間違いないだろう。
今季までクローザーを務めた松井裕樹投手がメジャー挑戦を表明したことから、チームの守護神の座は空席となる見込みだ。その後継者として、セットアッパーも務めた渡辺の名前も当然挙がってくるはずだ。伸びのある直球と大きく落ちる決め球、そして1年目から重要な場面でマウンドに上がった経験を生かし、さらなる地位を築き上げることを期待したい。
(「パ・リーグ インサイト」データスタジアム編集部)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)