先輩に引退勧告「やめてください」　奪ったボスの座…生意気だった新庄監督の師匠

柏原純一氏は小学時代、ソフトボールで実力を発揮した

　現役時代は打力、守備力、走力すべてを兼ね備えた選手として活躍。指導者としても阪神・新庄剛志外野手（現日本ハム監督）らを育てたのが野球評論家の柏原純一氏だ。1970年ドラフト会議で南海から8位指名を受けて八代東から入団。監督兼捕手だった野村克也氏の愛弟子として成長した。野村氏の“解任”による大騒動の末に移籍した日本ハムでは4番も務め、敬遠球本塁打などインパクトある活躍も見せた。そんな柏原氏の野球人生はライバルとの闘いから始まった。

　柏原氏は熊本県八代市日奈久町出身。「山登りしたり、川で泳いだり、海に行ったり、秋になったら稲刈りの終わった田んぼでソフトボールとかをやっていました。家は農家でお米を作ったり、イグサを作ったり。でもその手伝いをしたことはないんですよ。兄貴が継いで、次男坊の僕は好きなようにやらせてもらいましたね」。

　ソフトボールは小学校低学年の頃から。「最初は近所の神社みたいなところで三角ベース。中学生や小学校の高学年の人に交じってやっていた。近所のやんちゃな人が集まって、人数が足りないからってね。でも、そんなに引けを取った記憶はないね」。プロ野球は身近ではなかったという。「まだテレビが家になかったから、僕らの頃は。近所に一件だけ、テレビがあったところに行ってみたけど、野球中継を真剣には見ていない。巨人がどこかとやっていたけどね」。

　ソフトボールでも目立つ存在。「同学年や一つ上、二つ上くらいの先輩に比べたら、僕の方がボールも遠くへ投げられたし、速い球も投げられた。バットスイングもまぁまぁ良かった気がします。兄、姉、妹がいますけど、運動神経がいいのは僕だけなんですけどね」。小6の時には学校の運動会で選手宣誓。「僕がいた6年2組にその役が回ってきて『誰かやるヤツいるか』って言われて『はい』って手を挙げて、やったんですよ」。

　その年は1964年で東京五輪が開催された。「『東京オリンピックを目前に控えて思い出深い体育大会になりますように、一生懸命頑張ります』って言ったのを今でも覚えていますね」。ソフトボールでも実力を発揮しており、小6時には八代市の大会に出場する日奈久代表のメンバーに選出された。「試合結果は覚えていないけど、その日の夜にみんなで食べたオムライスは鮮明に覚えている。そんなしゃれたものを初めて食べたからね」。

小中学時代のライバルは別の高校に…「何を投げても打たれた」

　日奈久中では軟式野球部に入った。「僕は自分で野球がうまいと思っていた。ほかにもうまいヤツはいたけど、負けたくないと思ってやりましたね」。巨人・長嶋茂雄内野手に憧れて、ポジションはサード。「中2の時に3年生が何人かいたんだけど『3年生はもういいですよ。進学があるからやめてください』って言って、その時から僕らの代が中心になった。今思えば生意気なヤツだったなって思います。中3の時はキャプテンも『僕がやる』って言って、やりました」。

　小学校のソフトボール、中学校の軟式野球を通じて柏原氏にはライバルがいたという。「走るのも、勉強も、ケンカも、野球も全部でライバルでした。竹崎恭二。彼は八代工に行って、社会人は確か日本楽器だったと思うけど、全日本の4番を打っていましたよ」。柏原氏は八代東に進学し、2年秋からエースで4番だったが「八代工との練習試合では、竹崎にだけは打たれました。何を投げても打たれました。内心、嫌だったですよ、あいつが出てきたら」。

　とにかく強烈なライバル関係だった。「中学の時はあいつがエースだったけど、サードの僕がでしゃばって投げたり……。八代東に行くときも、たまたま、監督が僕に先に声をかけた。そのことがあいつは気に入らなくて、東高に行かず、工業に行ったんですよ。家も近かったから、ウチの親父が東高に誘ったけど、駄目だったって……」。竹崎氏はプロに進まなかったが「同級生にはよく言っていたらしいですよ。『あいつがプロに行くんだったら、俺も』って。後から聞いた話ですけどね」。

　その存在が小学生時代から柏原氏の負けん気も育てた。高校からプロの世界に入り、激しいレギュラー争いにも勝って、パ・リーグを代表する野手にもなったが、それが礎でもあったわけだ。まさに野球人生を振り返る上で忘れられない最初のライバル。「（八代工との）練習試合には勝ちましたよ。チーム力はウチ（八代東）の方が上だったんでね。でも個人だったら、もうコンコン打たれていました。ホント、あいつはいい選手だったんですよ」と柏原氏は懐かしそうに話した。

（山口真司 / Shinji Yamaguchi）