高めカーブに絶叫…快挙に“疑惑の判定” 「ボール気味だった」捕手がぶっちゃける裏側

ノーヒットノーランを達成した中日・近藤真一【写真:共同通信社】
ノーヒットノーランを達成した中日・近藤真一【写真:共同通信社】

中日・近藤真一の初登板ノーノー…大石友好氏がマスクを被った

 歴史的快挙をサポートした。1987年8月9日の巨人戦(ナゴヤ球場)で中日の高卒ルーキー・近藤真一投手がプロ初登板でノーヒットノーランの偉業を達成した。その試合でスタメンマスクを被り、好リードしたのが大石友好氏だ。「それもいい思い出ですね」。試合前のブルペンまで、1度も近藤のボールを受けたことがなかったという。そして、あの最後の瞬間は思わず……。捕手目線による舞台裏を明かした。

「あの時の巨人戦は勝ち、引き分けの後の3戦目でしたよね。僕は調子がよくて先発を任されていたんですよ」と大石氏は振り返った。8月7日からの巨人3連戦。1戦目は3-1で勝利、小松辰雄投手が4安打完投だった。2戦目は延長10回4-4の引き分け。2試合とも大石氏は「8番・捕手」でスタメン起用された。そして3戦目も近藤とバッテリーを組んだ。「(捕手は)中尾(孝義)も中村(武志)もいたんですけどね」。

 大事な巨人戦に3試合連続でスタメンマスク。大石氏は意気に感じながらも「気は楽だった」という。「3戦目はピッチャーがちょうどいなくて、誰がいくんだろうって話にはなっていたんですよ。近藤じゃないかって噂もチラホラありましたが、近藤で行くと聞いたのは試合前でしたね。1勝1分けでの3戦目で初登板初先発の18歳の高卒ルーキーでしょ。相手はジャイアンツだし、打たれてもしょうがないという部分もあったんで気分的に楽だったんですよ」。

 試合前のブルペンで近藤の球を受けた。「ずっと彼は2軍でしたから、それまで1度も受けたことがなかったんですが、真っ直ぐは力があるし、変化球は曲がるし、すごいなって思いましたよ。これは使えるなってね。それで『お前、球種は何があるんだ』って聞いたら『真っ直ぐとカーブ、あとフォークを練習しています』って。そんな感じでしたね」。

 試合に入ると近藤はさらに力を発揮した「真っ直ぐが強くて、カーブが大きく曲がる。ボールが散るからジャイアンツのバッターは怖かったんじゃないかな。初めてだしね。打者に向かっていく気迫、マウンドの迫力もすごかった。『これはいけるぞ』ってなりましたよ。ノーヒットまでは思いませんでしたけどね」。中日は初回にゲーリー・レーシッチ内野手のタイムリーと落合博満内野手の2ランで3点先制。「点を取ってくれて、また楽になりましたね」。

元中日・大石友好氏【写真:山口真司】
元中日・大石友好氏【写真:山口真司】

最後の打者・篠塚を見逃し三振「ボール気味だったけど切れも勢いもあった」

 それでも「真っ直ぐとカーブだけじゃあ、通用しない。フォークを試さないと長いイニングは持たないだろうと思って、ひと回りしたくらいだったかなぁ、フォークも投げていくぞって近藤に言ったんですよ」。当の近藤氏は「フォークなんて(試合で)投げたこともなかったからサインが出た時はどうしようですよ、こっちは。とりあえず挟んじゃえって感じで投げました」と話していたが、大石氏もいろいろ考えてのことだった。

「フォークもあるって相手に思わせるだけで違うんですよ。真っ直ぐとカーブのどっちかで張られるんですけど、フォークがあるだけでちょっと迷いが出てくるんでね」。5回にもゲーリーのタイムリーと落合の2ランが飛び出し、6-0とリードを広げてのノーヒット投球。「5回が終わった頃から、周りはいけるぞ、いけるぞって騒いでいましたけど、僕はそんな簡単にできんわって感じでリードしていました。勝てばいいと思っていましたから。試合に勝って近藤が1勝すればいいってね」と大石氏は当時の心境を明かした。

 さすがに9回に入ってからは大石氏も意識したという。「ここまで来たら、ノーヒットで終わろうって僕も気持ちが入っていましたよ」。カウント1-2からの4球目、巨人・篠塚利夫内野手を際どいコースの内角カーブで見逃し三振に仕留めて、近藤は大偉業を達成し、グラブをポンと叩いて両手を広げ、さらに左拳を突き上げての会心のガッツポーズ。大石氏はマウンドに駆け寄って、18歳左腕の頭を右手でなでるようにポンポンと叩いて祝福した。

「最後の球は高めのカーブでボール気味でしたけど、僕は『ヨッシャー!』って大声を出したんですよ。それで審判が手を上げたわけじゃないですけどね。篠塚は当てるのがうまいし、最後が篠塚っていうのは何かやられそうな感じがした。ホント三振でよかった。うれしかったですよ。ボール気味だったけど、球の切れも勢いもありましたね」

 プロ野球でいまだに1度しか起きていない歴史的快挙。大石氏は「高卒1年目で初先発初登板ノーヒット・ノーランというのはこの先もできないんじゃないですかねぇ。いい思い出です。相手がジャイアンツだったし、全国放送だったしね」と目を細めた。13奪三振、2四球。近藤が投じた116球すべてに絡んだ。それは大石氏以外、誰も経験できていないことだ。あの日、味わった喜びを一生忘れることはない。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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