ミスをしたら“伸びる” 失敗からの思考で著しい成長…指導者驚き「何が変わったの?」
巨人・鈴木尚広2軍外野守備走塁コーチが広島・呉市で野球教室を開催
現役時代は走塁のスペシャリストとして活躍した巨人・鈴木尚広2軍外野守備走塁コーチが、2023年12月中旬に広島・呉市の学童野球チーム「ドリームズベースボールクラブ」を対象にした野球教室(主催・宇都宮パック工業株式会社)を開催。チームの監督によると、野球教室の翌日から選手たちに大きな意識の変化が見られたという。
子どもたちに感じるものがあった。地元企業主催の野球教室には、小学校1年生から6年生にOBたちも加え、約40人が参加した。
鈴木コーチが考案したメニューは、プロが実施する従来の野球教室のイメージとは離れたものだった。「自分(鈴木コーチ)が来たからといって、指導者の考え方と違うことや普段と違う練習をやったところで子どもたちは迷って、構えてしまうと思う」と、“いつも通り”の練習の流れに鈴木コーチが加わる形をとった。
最初のランニングでは“伴走”しながら、ウオーミングアップの持つ本来の意味を語りかけていた。腿上げやダッシュなどはお手本とばかりに“段違い”のキレのある動きを披露。子どもたちの視線と心を奪うと、にこやかな顔で上級生には体の使い方を、下級生には楽しさを伝えていた。
キャッチボールでは1人1人に声をかけていた。上級生チームの平田晋也監督が今回の野球教室の翌日以降、選手から感じ取った変化は、ここでの鈴木コーチの言葉がきっかけだったという。
平田監督は振り返る。「あの時、子どもたちは鈴木尚広さんから『キャッチボールでは何を目的にやっているの?』と質問を受けていたそうです。私が『あれから何が変わったの?』と選手に聞くと『キャッチボール1つでも練習メニューに目的を持つことを意識するようになりました』『今はこういうことを気をつけています』などと話してくれるようになったんです」と驚いた様子だった。
少年野球の監督が実感「何が変わったの?」と問いかけたら…返ってきた驚きの答え
それだけではない。野球教室のメニューの中に鈴木コーチがノックをする守備練習があった。ゲーム性を持たせて「最後までエラーをせずに残った選手が優勝(エラー=捕球できなかった場合も含む。判断は主催側)」とアナウンス。学年別に3つのパートに分け、3人の優勝者を決めた。勝ち残った選手は鈴木コーチからマイクを向けられ、ヒーローインタビューを受けるイベントもあった。
守備が鍛えられたチームとあり、高学年の代は好捕連発。鈴木コーチが握るバットの力も打球も強くなっていった。右へ左へボールを振っても選手たちはくらいつき、なかなか決着がつかなかった。平田監督は「負けたくないと思って、これまでの以上の力が出ていました」と普段よりも上手にボールを捌く子どもたちに目を細めていた。
惜しくも敗れた選手たちも、ボールが捕球できなかった瞬間は空を見上げ悔しそうだったが、やり切ったと笑顔も見えた。平田監督はその場面でも、選手たちの精神的な成長を見つけることができた。
「楽しくやろう! というのは指導者として言ってきてはいたんですが、プレーをする上ではどうしてもミスが出て、落ち込んでしまうこともあります。でも、あの野球教室から『ミスをしたらどうしよう……』というようなマイナスな面がなくなりましたね。『次、なんとかしてやろう』とか『挽回したい』という意識を子どもたちから感じます」
野球教室の翌日。チームは地区の招待試合を戦い、ノーエラーで2連勝を飾ったという。子どもたちにまた「何が変わったの?」と監督が聞くと「ミスをすることよりも、ミスをした後が大事だから、その後をどうしようかということを考えるようになりました」と返ってきた。
平田監督は続ける。「もう、びっくりしましたよ。ミスしても、次をどうするかを考えて、それがうまくいけば楽しい、と言っている子もいて……。それまでこんなことなかった。なかなか小学生で考えられることなのかな、と思いました。守備が楽に入れているというか、ミスしたら絶対にダメなんだという危機感のようなものがなくなっていました」
コーチとはいえ、巨人で現役20年を駆け抜けたスピードスター。地域の小さな野球チームに「プロが来ても……」と指導者も選手たちも緊張し、対応が難しいのではないかと最初は不安を持っていた。だが、終わってみれば「指導者たちも楽しかったです」と喜んでいた。
“違う世界”に住んでいた人かもしれない元プロ野球選手と子どもたちの触れ合いは、見ている人たちを温かい気持ちにさせた。短い時間でも同じ目線で目的を示してあげることができれば、子どもの可能性は無限に広げることができると確信した。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)
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