5度の“戦力外通告”に妻も唖然「嘘でしょ?」 父からは「辞めろ」…波乱万丈の人生
イタリアの球団に「超大物助っ人」扱いで入団も「ブクブクに…」
西武やロッテなどで活躍したG.G.佐藤氏(本名・佐藤隆彦)は、これまでの人生で5度の戦力外通告を受けた。Full-Countのインタビューでは当時の状況を振り返り、辛い出来事があっても前を向く重要性を語った。
法大卒業後、入団テストに合格したフィリーズ傘下1Aでプレーしたが、3年目を終えた2003年オフに代理人を通じて戦力外を知らされた。「大卒から1Aに3年間もいた。若い選手はどんどん入ってくるし、仕方ない。この経験を生かして日本のプロに行こうと決めました」。
すぐに知人を通じて西武の入団テストの機会を得ると、同年のドラフト7位指名で入団した。4年目の2007年にレギュラーの座を掴んだが、2010年は怪我の影響もあって出場機会が激減。翌年は1軍出場もなく、オフに2度目の戦力外通告を受けた。
「2軍でも使われなかったし、何となく分かっていました。選手としての商品価値がなくなればクビになる世界。自分の力がなかったと受け入れました」
最後は野球を楽んでキャリアを終えようと2012年にイタリアの球団に加入した。「野球先進国の日本から来たということで、超大物助っ人とされました。そしたらワイン、パスタ、チーズ、ピザ……食べ物が全て美味くて、ブクブクに太ってしまって全く打てなくなったんです」と苦笑。シーズン途中の8月に3度目の戦力外を経験し「ファッションセンスだけ上がって日本に帰国しました」。
ロッテではファーム日本選手権制覇直後に「来年は契約しない」
いよいよ選手生活に区切りをつけようとした矢先、西武時代の監督だった伊東勤氏のロッテ監督就任が発表。すると数日後、伊東監督から「野球への炎は消えていないか」と電話が入った。
「辞めるつもりでいたから気持ちも体もできていなかったけど『消えていないです』と答えちゃいました。急いで体を仕上げて2週間後の入団テストを受けて、拾ってもらいました。地元の千葉の球団だったから嬉しかったです。ロッテをクビになったら野球を辞めようと決めていました」
ロッテ1年目の2013年は大きな活躍はできず、2014年も1軍出場はなかったが、2軍の一員としてイースタン・リーグ優勝に貢献。迎えたソフトバンクとのファーム日本選手権に臨む10月4日が、突然の運命の日となった。
「優勝して、胴上げしたり、みんなで喜び合ったりして、興奮状態で宿舎に戻ったんです。そうしたら自分の部屋に着いて数十秒でした。マネジャーから電話が入って『スーツに着替えて○○号室に来てください』って。まだ靴下すら脱いでいないのに。もう少し優勝の余韻に浸りたかったですよ」
指示された部屋に向かうと球団幹部から「来年は契約しない」と伝えられた。4度目の戦力外だった。つい先ほどまで一緒に喜びあっていた首脳陣は「お疲れ様」と神妙な表情。「俺がクビになると知っていたんですね。今思うと、だから試合の終盤で急に代打で出場させてくれたんです。花道ですよ」。
自宅に戻り妻に報告。「これで野球を辞める。ありがとう」。2人で涙を流した。「それは悔しさではなく、完走したことに対する涙です。野球人生をやり切ったんです」。
2008年北京五輪でのエラーも「今ではあって良かったと思っています」
数か月後、父が社長を務める測量、地盤改良工事などを扱う「株式会社トラバース」に入社。サラリーマンとして8年間勤めたが、昨年9月に自身のSNSで父親から“戦力外通告”を受けたことを明かした。
「父への恩返しで大事な会社を守ってあげたいと思っていたのですが、1代でやってきた父には父のこだわりもあって、でも時代にはそぐわない部分もあって、ぶつかることは多々あったんです。そうして『出ろ、辞めろ』と言われました。自分も使命感でやっていた部分があった。本当にやりたいことをやっていこうと決めました」
突然の“無職”に妻から「嘘でしょ?」と驚かれながらも「必ずあなたは、やると言ったことをやり遂げる男なので、信じてついていきます」と背中を押してもらった。
現在は講演や解説業などで生計を立てている。必ずプロ野球選手になれると信じてくれた父、中学時代にお世話になった野村克也さんから授かった「念ずれば花ひらく」の言葉など、周囲に支えられた人生だった。「人からいい影響を受けて、ここまで来られた。自分も誰かにいい影響を与えたいと思っています」。
2008年の北京五輪では日本の敗退につながる痛恨の失策を犯し「戦犯」として厳しくバッシングされた。「子ども達は無限の可能性を秘めている。失敗しても大丈夫だと伝えたい。エラーしてしまったことすら、今ではあって良かったと思っています。事実は1つだけど、解釈は無数ですから。それで人生は大きく変わる。ポジティブに生きることが、いかに人生を幸せにするか伝えていきたいです」。
佐藤氏はこれからも自らの経験を受け止め、自分らしく笑顔で発信し続ける。
【G.G.佐藤氏への講演依頼】
「夢を諦めない、チャレンジできる世界を作りたい」。G.G.佐藤氏の講演依頼はインスタグラム(https://www.instagram.com/gg_sato_takahiko)へDMで。
(湯浅大 / Dai Yuasa)