少年野球でDH制採用、「大谷ルール」なし 誤解や落胆も…入念に準備した“狙い”

JSBBは2024年度から小・中学生の各種大会にDH制を採用(写真は昨年のマクドナルド杯)【写真:加治屋友輝】
JSBBは2024年度から小・中学生の各種大会にDH制を採用(写真は昨年のマクドナルド杯)【写真:加治屋友輝】

全日本軟式野球連盟が小・中学生の各種大会で指名打者制度を導入の理由

 この15年で約5000の学童チームを失っている全日本軟式野球連盟(JSBB)で、打開への動きが活発化している。昨年12月には、税込みで1本5万円のものある一般用の複合型バット(打球部に弾性体の別素材)の2025年度からの使用禁止を発表(学童部)。来たる2024年度は、チームにつき1人以上の有資格指導者の義務付けがスタートする。

 さらには今月16日、新たなルールの導入を発表した。少年部(中学生)と学童部(小学生)の各種大会に、指名打者(DH)制度を導入する、というものだ。

 そもそも、指名打者制度とは。今回の導入には、どのような経緯や背景があるのか。そして学童野球の現場では、新制度がどのように受け止められているのだろうか。

 まずは指名打者(以降、DH)制度について。日本球界では1975年にプロ野球パ・リーグで採用されたのが初。アマチュアでは大学や社会人で採用する大会やリーグ戦もあるが、高校以下はまるで縁がなかった。これが、今回のJSBB発表後に多くの誤解や混乱を生じさせた。

「体がまだ小さくて非力で、打つほうは大きく引けをとるけど、足が速くて外野守備が抜群の子がいるので、そういう子にも光が当たる(救われる)良い制度だと思います」

 まずはこのように大賛成を口にする学童の監督が多数いた。しかし、DHとは「投手に代わって打つ打者」のことを指している。要するに「非力で打てない選手」に代わるポストではない、ということ。これらを初めて知って、落胆するケースも後を絶たなかった。かく言う筆者も、「任意の野手に代わって打つ打者」(ソフトボールで採用の『DP』)が今回のJSBB発表の新制度である、と当初は誤認していた一人だ。

野球界を好転させるべく、JSBBでも施策を講じてきている。写真は吉岡大輔事務局長【写真提供:フィールドフォース】
野球界を好転させるべく、JSBBでも施策を講じてきている。写真は吉岡大輔事務局長【写真提供:フィールドフォース】

2023年度から一般部(高校生以上)で先に導入…否定的な反応はなし

 では、JSBBがDH制度を導入した背景とは。吉岡大輔事務局長によると、連盟内の審判技術委員会から「できるだけ多くの選手に出場機会を」と、2、3年前に提案されたのが最初だという。同連盟の公式サイト上でも、「一人でも多くの選手に出場機会を与えるため」と、その目的が明記されている。

 その後に議論やテストを経て、実は2023年度から一般部(高校生以上)で先に導入。「学童・少年部が1年遅れたのは、スポーツ少年団や中体連との調整が必要だったことと、各地の審判部で準備するためもありました。一般部では『ありがたい』という声を聞いても、否定的な反応は見聞きしていません。こうしたことから、学童でも導入の判断をし、理事会で承認されました」(同事務局長)。

 なお、この新ルールにおいて、チームは必ずしもDHを指名しなくてもよく、また、「一人でも多くに」という導入の狙いから、投手とDHを兼任し、降板後も打者として打線に残れる「大谷ルール」は採用しない。

 今回の発表後、JSBBへ直接の反対意見はなし。問い合わせは複数あったが、業務に支障をきたす数でもないという。

 DH制に限らず、同連盟では要人の気まぐれやスタンドプレーでルールが決まることは決してない。野球の普及・振興にも熱心な吉岡事務局長は、現場の声にも真摯に耳を傾けている。

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中

(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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