戦力外→古巣復帰で覚悟…慣れぬ握りに「気色悪い」 36歳で変わった“感覚”
「バットの握り方が変わると、体の動き方も変わる」
西武に6年ぶりに復帰した炭谷銀仁朗捕手が28日、埼玉・所沢市内の球団施設で自主トレを公開。プロ19年目を迎えるベテランは、正捕手の座確保に並々ならぬ意欲を示した。
ここからの成長を諦めていない。「19年目で今さらですが、バットの握り方から変えています」と照れ笑いを浮かべながら、大幅な打撃改造に取り組んでいることを明かした。きっかけは年明け、久しぶりに同じチームとなった中村剛也内野手との会話だった。
「バットを指で握るか、手のひらで握るかという話で、僕はこれまで指でしたが、中村さんから『握り方が変わると、体の動き方も変わる』というお話をうかがい、手のひらに変えました。さらに小指側に力を入れて握っていたのを、親指側に変えました」と明かす。
「バットを持つ感覚は、これまでと全く別物。めちゃくちゃ気色悪い。ボールペンで書いている記者の皆さんが『筆で書け』と言われるようなものです。書きにくくてしょうがないでしょ?」と笑わせつつ、「あくまでマシン打撃の段階ですが、(打った感触は)いいですよ」と手応えありげにうなずく。この日も黙々とマシン打撃に取り組んでいた。現役最多の通算471本塁打を誇る中村から吸収したエキスが、打撃面で飛躍を促すかもしれない。
もっとも、炭谷に最も期待されるのは、経験に裏打ちされた円熟味のあるリードである。2018年オフに13年間プレーした西武から海外FA権を行使し、巨人に移籍。2021年のシーズン途中に金銭トレードで楽天へ移籍したが、昨年限りで戦力外通告を受け、古巣のユニホームに再び袖を通すことになった。
とりわけ、このオフに国内FA権を行使し西武からソフトバンクに移籍した山川穂高内野手との対決は注目されるところだ。炭谷は「昨年までも敵として対戦していましたが、同じところでやっていたメンバーには特別な思いがあります。森(友哉捕手=現オリックス)にしてもそうですし、昨年まで一緒のチームだった浅村(栄斗内野手=現楽天)にしてもそうです」と心境を明かした。
松坂大輔氏に感謝「サインに全然首を振らなかった」
既に昨年12月の復帰会見の際、「143試合全部自分が出るんだという気持ちは、持たないといけないものだと思います」と決意を表明。春季キャンプも宮崎・南郷でA班(1軍)スタートが決まった。昨年90試合でスタメンマスクをかぶり両リーグを通じてトップの盗塁阻止率.412をマークした古賀悠斗捕手、同41試合先発の柘植世那捕手らとの定位置争いに、真っ向から挑む構えだ。
一方、春季キャンプで臨時投手コーチを務める松坂大輔氏との再会も感慨深い。松坂氏がメジャーへ移籍する直前の2006年、当時高卒ルーキーの炭谷は1年間だけ同じチームでプレー。5試合でバッテリーを組み3勝2敗、防御率2.50だった。
「あの年はWBC(第1回ワールド・ベースボール・クラシック)があったので、松坂さんはすぐに春季キャンプからいなくなり、僕はブルペンで1度も捕れませんでした。初めて捕ったのは開幕後(3月30日のソフトバンク戦)で、ブルペンで初めて受けて、そのまま試合でした」と回想。松坂氏とバッテリーを組んで初めて白星を挙げたのは、同年4月7日に札幌ドームで行われた日本ハム戦で、7回1失点。「(ボールを捕るのも)必死でしたが、(松坂氏が炭谷のサインに)全然首を振らなかった記憶があります。めちゃくちゃ嫌な球種でも投げてくれていたのでしょう。それでも確か犠飛による1失点だけでした」と当時のエースの心遣いに感謝している。
さまざまな思いを胸に再び古巣でプレーする炭谷。1周回って、ライオンズのユニホームが他の何よりも似合いそうだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)