学童野球のDH制は“非現実的”か 趣旨には全員賛同も…「指導者のモラル」問う声
全軟連が2024年度から「指名打者制」導入…現場監督・関係者の意見
『子どものころからエースで4番』で始まるCMソングが流行ったのは1990年代の初頭。それからおよそ30年、エースの役回りや打順の解釈が多様化する今日の少年野球界でも、投打「二刀流」の活躍が決して珍しくない。
全国9000超の学童(小学生)チームが加盟する全日本軟式野球連盟(全軟連)では、1日70球の球数制限や6イニング90分制など、30年前は議題にもなかっただろうルールを採用。その主眼は選手の心身保護で、1990年には1万7000以上あった加盟チームが激減していることも背景にはある。
来たる新年度からは指名打者制(DH制)も導入される。「一人でも多くの選手に出場機会を」という理由だが、全軟連の吉岡大輔事務局長はこうクギを刺す。
「DHはあくまでも任意で、義務付けではありません。選択肢のひとつをご提供したということです」
では、現場ではどう受け止められているのか。キャリアの長い全国各地の監督に話を聞くと、反対意見は皆無だった。ただし、例のごとく投打「二刀流」が当たり前なので、投手の代わりに打席に入るDHは「使いどころがない」との意見が大多数を占めた。
「絶対とは言えんけど、投手をする子は運動能力も優れていることが多い。つまり打撃も良いので、DHは現実的ではないかな」
これは昨年の日本一、大阪・新家スターズの千代松剛史監督の見解で、全国大会を知る指導者はほぼ同様の意見だった。
NPO法人の埼玉・吉川ウイングスは、38年前から主催するローカル大会で「DP(投手を含む野手に代わる打者)」を採用。「大会によってDHを使い分けるのもアリですね。ただ、出場機会を増やすならDPが現実的」(岡崎真二監督)。同様のリクエストも多数あった。
滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督(2018年・19年日本一)は、DP制などへの移行を予見する。「今の1日70球の球数制限ルールも、イニング制限から少しずつ変化してきた。良い方向へ全軟連が動いていること、やりながら変えていくあたりにも共感します」
「野球の魅力『全員が打席に立つ権利』は残すべき」と事務局長
これらの熱い声に、全軟連の吉岡事務局長も熱い私見で応えてくれた。
「DP採用となれば、打席に立てない野手が発生しますが、野球の魅力でもある『全員が打席に立つ権利』は教育上の観点も含め、残すべきかと。打撃に自信がない選手でも、1本のヒットから可能性や能力が向上するかもしれません。投手もそれは同様ですが、体力的にも精神的にも重圧が大きいポジション。酷使や障害予防の観点からも総合的に検討した結果がDH制導入で、個人的にはこのままでいいと考えています」
2019年全国準優勝の愛知・北名古屋ドリームスは、練習試合からDHを採用するという。1学年で10人強、伝統的に打力で鳴る強豪を率いる岡秀信監督はこう語る。
「DH制は待ち望んでいました。ウチは過去にも『エースで4番』はいないし、なぜか他は守れないのに投手はできるという子もいたり。ケガ予防とかモチベーションを保つ意味でもDHは有効ですね」
全国予選は不参加で、育成を重視する東京・ブロッサムBBCの片山純一コーチの見解も興味深い。同コーチは亜大、社会人日本代表でもプレーした左腕投手だ。
「指導者のモラルも問われますよね。『勝利』を外して『育成』『機会』とした場合には活用できるのがDH。僕は東都大学リーグ(DH制)にいたけど、神宮大会(DH制なし)で打席に立てたときに、打つのは楽しいなと再認識。その反面、準備がむちゃくちゃ難しい。学童野球でもDHを経験して、ルールとか打撃に興味が沸くこともあると思います。ウチは全試合でDHを使います」
DHを使うか否かは、チームの目標や方針、戦う舞台によって違いが見られそうだ。ともあれ、「一人でも多くに出場機会を」という導入趣旨には100%の賛同があった。30年前の現場では果たして、こういう事態はありえたのだろうか。
〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。
(大久保克哉 / Katsuya Okubo)
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