「巨人は結果が悪ければ叩かれる」新エース戸郷の覚悟 忘れぬ悪夢…見てきた菅野の背中
初の開幕投手に指名「ジャイアンツは勝ちを求められる試合が毎回続く」
巨人は球団創設90周年の今年、44歳の阿部慎之助監督が就任。開幕投手は、戸郷翔征投手が初めて務めることがすでに決まっている。2018年のドラフト会議でチーム最下位(育成を除く)の6位指名を受け、宮崎・聖心ウルスラ学園高から入団。6年目にしてエースの座に駆け上がった23歳の右腕が、Full-Countのインタビューに答える第1回──。
今年の巨人の開幕戦は3月29日。本拠地・東京ドームで、昨季日本一の阪神と対戦する。「先(今季初登板の日)が決まっている分、すごく楽なところはありますが、そこへ必ず合わせなければいけないという緊張感がありますし、怪我もできない。いいプレッシャーの中でやれています」と新エースはうなずく。
昨年11月30日のイベントで、就任直後の阿部監督から早々と開幕投手に指名された。年が明け、宮崎、沖縄でのキャンプで順調に調子を上げてきたが、「開幕投手に決まっているといっても、今後のオープン戦の結果が悪すぎれば、どうなるかわかりません。一昨年も2軍に落とされましたから。結果を求めながらやっていきます」と表情を引き締める。
2020、21年に2年連続でシーズン9勝を挙げ、先発ローテーションの一角として計算される存在になりながら、翌2022年のオープン戦で失点を重ね、2軍降格の苦汁を飲まされた(2軍戦で好投し、“滑り込み”で開幕ローテ入りは果たした)経験を忘れていない。一流の投手は、抑えたことよりも打たれたことの方をよく覚えているといわれる。戸郷にもそれが当てはまる。
開幕投手といえば、「菅野(智之投手)さんです」。球団史上最多の通算8度、戸郷入団後の過去5年のうち4度にわたって、栄誉に浴しているのが菅野である。「大事なところで必ず勝つのがエース。それを背負ってきたのが菅野さんだと思います。ジャイアンツは、結果が悪ければ叩かれる。それくらい勝ちを求められる試合が毎回続く。その中で苦しい時も状態がいい時も、菅野さんの姿を見てきました。開幕戦となれば、ジャイアンツファンは絶対に勝ちゲームを見たいはず。そこにつなげられる投球を意識していこうと思います」とボルテージを上げる。
ツーシーム、カットボールなど「変化の小さい球種」に磨きをかける理由
入団以来、チームに菅野という存在がいたことは幸運だった。「以前から菅野さんに、開幕投手を務める時にはどんな流れで調整していくのか、という話をうかがっていました。いつか自分がやる時のために、と思いながら聞いていました」と明かす。自身初の大役にも、シミュレーションはある程度できているようだ。
戸郷の最大の持ち味は、タフネスにある。昨季はDeNA・東克樹投手、西武・高橋光成投手と並び、NPB最多タイの4完投をマーク。8月3日に東京ドームで行われたヤクルト戦では、9回をプロ入り後自己最多の149球、1失点で投げ切った。ラストボールの149球目にも、150キロを計測する力を残していた。
「もともと完投が大好き。高校時代には1試合191球を投げたこともあります」と笑う。2017年夏の高校野球宮崎県大会3回戦で、ノーシードの聖心ウルスラの2年生エースとして、第4シードの日章学園と激突。驚異的な延長11回191球完投で勝利を収め、そのまま勢いに乗って甲子園出場を果たしている。「当時のチームは僕が完投するのが普通でしたし、監督が僕の状態を気遣いながら、そこまで行かせてくれました。あの試合を抑えなければ甲子園に行けなかったですし、すごくいい経験になりました」と笑みを浮かべながら振り返る。
そして「プロとアマチュアは全然違います。プロでの9回完投は難しいですが、こだわってはいますよ」と言い切る。先発を任された試合を1人で投げ切る体力、責任感が成長の源となってきた。
その上で、今年はこれまであまり投げてこなかったツーシーム、カットボールに重点的に磨きをかけている。「僕はカーブ、スライダー、フォークといった、曲がりや落差の大きい変化球が持ち味ですが、変化の小さい球種がいくつか加われば、(投球の)幅が広がるかなと。球数を減らすメリットも大きいのではないかと思います」と説明する。
一昨年に最多奪三振のタイトルを獲得するなど、「3球三振が理想」という投球を展開してきたが、ツーシームやカットボールは、1球で打たせて取る球種になりうる。「球数少なく完投しないことには、年々疲労が蓄積していくと思いますし、肩は消耗品ですから」と語る。
記念すべきシーズンに、大きな進化を遂げようとしている。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)